• YouTubeの「山田五郎 大人の教養講座」が好きでよく見ている。BS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」と同じ東阪企画が制作している、ゆるく美術を語るチャンネル。

    ムンクの『叫び』を解説した回で、この作品のきっかけとなった体験をムンク自身が書き残した文章が紹介されている。

    は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。突然、空が血の赤色に変わった。私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。

    この「震え、戦っていた」を聞いて、何となく誤訳の臭いを感じた。戦っていた? 何と? という部分を言っていないのは、目的語や補語をあまり略さない西洋語の文としてはなんか変だな、と。

    五郎さん曰く、出典はムンクの日記だという。日本語版Wikipediaを見ると確かにこの文章が載っていて、「震え、戦っていた」と書かれている。これを引用したのだろう。

    英語版Wikipediaも見てみる。英語版によると、この文章はムンクがこの体験をした当日の日記とはまた別で、後年の回想で書かれたものらしい。ともあれ、(ノルウェー語ではなく当然英訳だが)該当する文章が引用されている。

    I was walking along the road with two friends – the sun was setting – suddenly the sky turned blood red – I paused, feeling exhausted, and leaned on the fence – there was blood and tongues of fire above the blue-black fjord and the city – my friends walked on, and I stood there trembling with anxiety – and I sensed an infinite scream passing through nature.

    “trembling” としか書かれていない。はて、「戦っていた」はどっから出てきた?

    …というところで思い付くのが、「震戦」「戦慄」という言葉である。「戦」には「おののく(戦く)」という訓読みがある。これ、「震え、戦いていた(おののいていた)」だったんじゃないの?

    ということで、日本語版Wikipediaの該当記事の編集履歴をたどってみる。やはりだった。2008年1月13日の編集で「震え戦いていた」という訳文が最初に追加されている。

    これ以降、読点が追加されたりもしたが、

    とにかく当初は「震え、戦いていた」だったことが判明。

    「叫び (エドヴァルド・ムンク)」の版間の差分 – Wikipedia

    ところが、2年後の2010年3月8日の編集で、「戦いて」が「戦って」に変更されてしまっている。

    ご丁寧にも「戦いてを戦ってに」という編集内容の要約が残されている。この編集を行ったIPユーザーは「おののいて」という読みを知らなかったのだろうか。

    「叫び (エドヴァルド・ムンク)」の版間の差分 – Wikipedia

    これ以降、記事は「震え、戦っていた」のまま直す人もなく、日本でだけ、ムンクは「戦っていた」ことになってしまった。

    現在、「”ムンク” “震え、戦っていた”」で検索すると、実に2,410件ものwebサイトがヒットする。「戦いて」を正しく読めなかった一人のWikipedia加筆者の間違いが孫引きされ、これほど広まった。有名な美術サイトの「MUSEY」や東京都美術館ミュージアムショップのページにも「震え、戦っていた」が伝染している。

    紙の出版物でもdegradeがきっかけの誤情報は発生しうるけど、webの時代は間違いが再生産・流布される速度が段違いだから、なかなか厄介。そういえば「野本さんの後妻」事件というのもあった。今は直っているが、修正まで5年くらいかかったようである。

    蛇足だが、もともとは “trembling” の一語だったんだから、「震え戦いていた」に読点を入れて「震え、戦いていた」に変えた加筆もあんまり良い直しではないな。

  • 雪が降って外出もできないしということで、少しずつ進めていた確定申告を一気に完了。おかげさまで売上は少し増えたが、控除をまめに積み上げたおかげか還付金が昨年より増えた。ありがたい。

    相変わらず生活も厳しいので、今年はめんどくさがらずに節税になりそうなことをいろいろやってみた。

    固定資産のルールは分かりづらくていろいろ迷った。

    PC一式のようにセットで機能するものはセット全体で一つの固定資産としろという話だが、Mac本体、キーボード、モニターなど、それぞれを別の店で買って別々に領収書がある場合にはどうすればいいの? とか、そういう現実に即した説明がなかなかない。

    一応、購入店や購入日がばらばらであっても、使うときにセットで使うなら一体のものとして固定資産に登録すべきらしい(資産としての使い方が同じなのに、買い方によって税額が変わるのはおかしいという理屈)。

    …なのだが、パーツを買い集めて組み立てる自作PCや、カメラボディと交換レンズのように、一体なのかバラなのかを線引きするのが簡単でないケースもある。過去に裁判にもなっているようだ。

    下記サイトの税理士さんは、「買った単位ごとに経費にしてよい、ただし『一体の資産とすべき』という税務署の理屈に対するリスクヘッジとして、カメラボディとレンズ1本など、最小構成の組合せを一つ、固定資産としておくのがよいのではないか」という説。

    カメラ・レンズの経理。勘定科目・30万円未満の判断・中古。 | EX-IT 効率化で独立を楽しく

    自作パソコン(PC)の経理。パーツごとに経費になるかどうか。 | EX-IT 効率化で独立を楽しく

    freee会計でこういう複数の買い物品からなるセットを固定資産として登録する場合には、個々の買い物を別々に取引登録せず、セット全体を1件として合計金額で取引登録する。購入日や購入店がばらけている場合は、代表的な物品の購入日・購入店を取引登録に入力し、複数の領収書を全部その取引に添付するしかないようだ。

    固定資産になるか消耗品費になるかは、セットの合計金額が10万円を超えるかどうかで判断する。これも、分かりきったことだとされているのか、なかなか説明が見当たらなかった。マウスやモニターなど、単体では10万円以下のものが含まれていても、PC一式としての合計額が10万円以上なら「一式で固定資産」として固定資産台帳に登録する。

    具体的な固定資産の登録方法例(車両運搬具 編)

    税金の世界って、うるさいことを言うわりに、細部や実際のケーススタディになると税理士やFPによって説が違っていたりして、最終的には「税務署・国税庁の匙加減で決まる(からよく分からん)」的な結論がとても多い。法律も同じ。運用する人間から切り離された「一意に決まるもの」では全くない。自然科学の世界とはかなり趣を異にしている。

  • テレビの地上アナログ放送が停波して10年以上経ったが、今でもVHFアンテナをたまに見かける。上の写真の家はVHFアンテナ「しか」立っていない。クール。

    今となっては無用の長物だが、業者に撤去を頼むと1万円以上かかるらしいので、放置している家が多いのかも。もしくはFMラジオの受信に使っていたりして。

  • 三菱のスペースジェット(旧三菱リージョナルジェット (MRJ))の開発中止が決まった。ようやく。

    三菱重工、スペースジェット開発中止を正式発表 泉澤社長「機体納入できず申し訳ない」

    6、7年前に前々職を辞めようと転職活動をしていて、略称がJで始まる5文字の航空宇宙関連企業に応募したことがある。JAXAの協力会社の一つで、「きぼう」や「はやぶさ2」の管制にも関わっている。

    当時自分が応募したのは、宇宙機や飛行機のシステムやソフトウェアの安全性保証、品質保証あたりの職種だった。勤務地はつくばだったが、J社は名古屋にも事業所があり、三菱航空機からMRJ開発プロジェクトの安全性保証に関する部分を請け負っていた。

    所属部署のリーダーの方による1次面接は通り、募集要項では面接はあと1回という話だったが、なぜか2回に増えた。2次面接は名古屋にいる部長による面接で、これも特に問題なく通った。あとは取締役の最終面接があるので、「元気よくやってね」みたいなアドバイスを部長さんからいただいた。

    最終面接は取締役3人によるものだったが、これが経験がないほどひどかった。あまりにもひどかったので、何があったのか忘れないようにと当時メモを残し、応募辞退を人事担当者に伝える際に送った。そのメールからの引用。

    • 適性検査で「対人関係が苦手」という結果が出た点について、「うちは厳しいけど大丈夫なの? やれんの?」との質問を再三受けた。
    • 大学院を中退後に小規模な会社に就職した点について、「いい大学を出たのになんでこんな会社に?」など、また「現職は収入面などで厳しいため、安定性のある会社を志望して御社へ」と私が答えたことに対して、「大学院から富士通とか大企業に行けたでしょ。だいたい分かるでしょ?」など。
    • 「宇宙が好き」という志望動機について、「20代ならともかく、40歳を過ぎて独身で家族もなくて「宇宙が好き」とか言っててもねぇ。まあだいたい分かるけどね」(=そんな感じだからその歳で独身なんだよ、という言外のニュアンスを感じました)(「40を過ぎて独身でねぇ」というのは2回言われました)
    • Windowsソフト開発の経験はあるが「システム検証」や組み込み系の経験がない点で「採用後に勉強してキャッチアップしたい」「何であれ、やるうちに面白さを見い出していける性格だと思う」と答えた点について、「中途採用ってのは即戦力を求めてるわけだからさ、「何年かやるうちに」とかじゃ困るんですが」と突っ込まれました。募集要項には「採用後はメンターに付いて研修を受けるので未経験でも2年程度で業務を覚えられる」とあったのに話が違うな、という印象でした。【補足:俺は「何年かやるうちに」などとは言っていないのだが、これを言ってきた取締役は、いきなり大声を出してこちらを罵倒するような勢いで食ってかかってきた。】
    • 常務のお二人は終始半笑いで私に応対し、そのうちのお一人は椅子に横座りして手に持った老眼鏡で私の顔を指しながら喋る、といった態度で、人生を賭けて応募してきている応募者に相対する姿勢としてはちょっと油断しすぎでは、と思われました。
    • 面接の最後にこちらからの質問を受け付けるといった時間もいただけず、20分が過ぎたところでそのまま終了となってしまいました。

    そもそも中途採用としての募集だし、応募資格や年齢の条件もクリアしているのに、「40歳を過ぎて独身で『宇宙が好き』とか言われてもね」などと職務以外の経歴や人格を否定するような言葉を受けたのには、かなり傷付いた。だったら1次・2次で落とせよ、と思った。

    いわゆるストレス耐性などを見るための圧迫面接なのかとも思ったが、であれば面接の最後に「そういう耐性を見たかったのできつい言葉を投げかける場面がありました。すみません」などと種明かしをすべきだろう。そもそも圧迫面接という手法自体がとっくに時代遅れになっているが。

    まあこんな感じだったので、1次・2次の面接をしてくれたリーダーの方と部長の方は大変好感触だったのだが、最終面接の結果を聞く前にこちらから辞退した。選抜であれテストであれ、人を惨めな思いにさせて何とも思わない会社に入ろうとは思わない。現場と取締役の距離が遠い、不幸な会社だね、と思った。

    あれから7年経ち、MRJ が米国 FAA の型式証明を取得できないという理由で開発中止になったとの報を聞くにつけ、まさにあの、求人していたシステム安全保証のところで結局うまくいかなかったのかなー、と感慨深い。あの後、優秀な人は採れなかったのだろうか。

    当時ひどい面接をしてくれた取締役の人々が今もJ社にいるのかは知らない。近い業界で今仕事をしているが、今後J社がらみの仕事だけは受けまい、と心に決めている。

    MRJ がダメだったのは、「旅客機の型式証明とはどうやって取るものなのか」という基本的理解やノウハウが日本の企業にも官庁にも存在しないからだという話もある。ホンダジェットがうまくいったのは、あれは日本の国産機ではなくホンダ傘下の米国法人が作ったから FAA の型式証明を取れたのだと。

    なぜ国産旅客機「MRJ」は失敗したのか 現場技術者に非はなかった? 知られざる問題の本質とは | Merkmal(メルクマール)

    MSJはなぜ「開発中止」に追い込まれたのか? 本当に日本の技術を憂うなら、まず製造国として型式証明を承認せよ | Merkmal(メルクマール)

  • 8月末・10月末とともに、市県民税・国民年金保険料・国民健康保険税が同時に引き落とされる三重苦の日。こないだバイトの給料が入ったばかりの口座がすっからかんになっていて吐血。春は名のみの風の寒さや。

    国民年金保険料に関しては、取られる額が決まっていて必ず支払うものなので、前納で払ってしまうことにしたい。前納にすると雀の涙ほど割引がある。

    https://href.li/?https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-04.html

    さらにクレジットカード納付にすれば、前納の割引に加えてカードのポイントが付く可能性もある。三井住友のVポイントは国民年金保険料の支払いには付かないらしいので俺はやめたが。ポイントが付くカードを使っている場合はクレカ納付がお得かも。

    カードを利用しても、ポイントが付かないことはありますか? | 三井住友カード

    いずれにしろ、国民年金保険料を前納するには2月末までに申請が必要とのこと。処理に約1か月かかるらしいので、来年度分から前納するには早々に申込が必要。