space

HAKUTO-R

初の民間機による月着陸はならず。残念。

現時点で得られているデータに基づくと、東京日本橋のミッションコントロールセンター(地上管制室)にて、着陸シーケンスの終盤、ランダーの姿勢が月面に対して垂直状態になったことを確認しておりますが、着陸予定時刻を過ぎても着陸を示すデータの確認にはいたりませんでした。その後ランダーの推進燃料の推定残量が無くなったこと、及び、急速な降下速度の上昇がデータ上確認されており、最終的にテレメトリの取得ができない状態となりました。これらの状況から、当社のランダーは最終的に月面へハードランディングした可能性が高いと考えております。なお、これらの状況が発生した要因については、現時点ではこれまでに取得されたテレメトリの詳細な解析を実施している状況であり、解析が完了次第ご報告いたします。

最後の降下段階で高度のテレメトリがゼロになった後も接地の検出がなく、降下のための逆噴射を続けた結果、推薬が尽きてその直後に降下速度の急上昇(=たぶん自由落下)を見せた後で通信途絶。高度はレーザー距離計で得ていて、現実の高度となぜ食い違ったのかは調査中とのこと。

月は大気がないのでパラシュートを使えず、軟着陸するには逆噴射しかない。最終降下の局面に限れば、パラが使える火星より難しいと思う。

月ではNASAのLROが今も周回観測をしているので、着陸予定地点を撮影した画像がそのうち出てくるだろう。LROは1周2時間の極軌道で、月の自転に合わせて撮影経度がずれていき14日で全球を撮影できる。1周ごとに約1度ずつシフトという感じか。

HAKUTO-Rを運用するispaceは元々、Google Lunar X PRIZEという民間月着陸機レースのファイナリスト5チームの一つ。「月に軟着陸→500m移動→画像・動画を地球に送信」というミッションの達成を競うレースだったが、5チームとも〆切までに実現できず、2018年にコンテストは終了した。その後の各チームの状況は以下。

5チームのうち、SpaceIL(イスラエル)の Beresheet は2019年にFalcon 9で打ち上げられ、月周回軌道投入まで成功したが、軟着陸には失敗して時速500kmで硬着陸→破壊。生きたクマムシを積んでいて、「月面が地球生物に汚染された」と話題になったやつ。一応、月は石と砂ばかりでアストロバイオロジー的に貴重な環境はなく、宇宙風化も厳しくて生物はあまり生存できないと考えられるため、惑星防護の面でこのクマムシはさほど問題にはなっていない。

月まで行った2チーム目が今回の ispace/HAKUTO-R で、残り3チームはロケットの契約がキャンセルされたりして、打ち上げまでこぎ着けているチームはないっぽい。

Starship Flight Test

20日、打ち上げをYouTubeライブで見た。

StarshipをSuper Heavyの上に載せた状態で上げるのは初なので、どこまでいけるかという感じだったが、高度39kmまで上昇後、Super Heavyを分離できずに機体が回転。T+4分で指令破壊となった。一般のメディアは「試験飛行で爆発」のような報道だったが、つかまり立ちできるようになったばかりの赤ん坊がこけましたという話に特筆性がないのと同様に、この段階で指令破壊になったことにもニュースバリューがあるとはあまり思えない。むしろ「液体メタン燃料エンジン」と「33基クラスター」という2つの新規要素を持つロケットが39kmまで上がったことの方が重要。

StarshipとSuper Heavyはともに地上に帰還して再使用する仕様。今回の試験のプランでは、T+2分52秒でSuper Heavyを分離し、Super Heavyは帰還用の燃焼をしてからメキシコ湾に落下、Starshipは地球をほぼ1周してT+77分に大気圏再突入、ハワイ沖に落下する予定だった(今回はどちらも軟着陸はなし)。

リフトオフでゆっくりゆっくり上昇する様子は圧巻だった。実際の離昇はT+6秒くらいに見える。改めて見返すと、33基のエンジンのうち4基が着火せず、その後さらに2基消えて26基で上昇している。

他のロケットとの大きさ比較は以下の通り。N1はソ連がアポロに対抗して進めていた有人月ミッションのロケットで、飛行実績はない。

SpaceXの開発速度と「失敗の余地」の大きさについては、Ars Technicaの記事によると、

  • すでにあと3機のSuper Heavyが製造済みでほぼ飛行可能
  • NASAがSLSを1機作るのにかかった時間でSuper Heavyを10機生産できる
  • Raptorエンジンを1日1基のペースで製造できる

という感じらしい。とはいえ、確立しなければならない要素技術はまだたくさんある。

今のところ、Starshipをアルテミス計画で使う前に、無人で静止衛星の打ち上げを1回、富豪を載せた有人地球周回を1回、富豪を載せた有人月往復を2回やることになっている。この有人月往復のうちの1回が前澤さんのやつ。

有人月往復は自由帰還軌道なので、打ち上げと地球着陸のときにしか大きなΔVは要らず、軌道上での燃料補給はしない。なので燃料補給の技術は後回しでもいいが、Super HeavyとStarshipを地上に帰還させる技術は必要。Starshipは高度10kmからの垂直着陸に成功しているが、Super Heavyはこれから。

Super Heavyは着陸脚で立つのではなく、降りてくる機体を発射塔のアームでつかむ。宮本武蔵みたいな。着陸脚方式だと機体重量の1割くらいを脚が占めてしまうのと、回収から再打ち上げまでのターンアラウンドを短くしてバンバン上げたいという理由でこうなったらしい。

頭がおかしい、できんのかよ、と思うわけだが、今までもFalcon 9の垂直着陸のようなクレイジーな技術を実現させてきた実績があり、NASAもそのへんを評価して契約を結んでいるわけなので、まあ見守るしかない。

H3失敗

前回アボートに至った部分も対策されて正しく機能し、第1段分離までは完璧だったが、第2段エンジンに点火せず指令破壊。残念。

今日は種子島での記者説明会と対策本部会合後の文科省の記者会見で14時頃から21時頃まで、間に晩飯を挟みつつリモート会議漬けで疲れた。そういえば共同通信の例の記者が文科省の会見にいたが、今回は何も質問しなかった。

今日の時点では「第2段に点火しなかった」という以上の情報は何も出ず。岡田PM曰く、テレメトリの複数のデータからみて、データの異常ではなく実際に点火しなかったとみている由。ライブ画面に表示されていた機体速度も落ちてしまっていたからね。

原因究明と対策が済んでH3の打ち上げができるまでには1年くらいかかるかも、という見方もある。

ただ、20年前はこれでも違和感がなかったが、週1以上のペースでSpaceXがロケットを打ち上げている現在に、たかが第2段の点火失敗で1年以上も停滞するというタイム感は、もはや受け入れがたい感じもある。SpaceX並みとはいかなくとも、もう少しアジャイルに打てる体制にできないものか。H3自体、低コスト化を目指す機体でもあり、試行を短いサイクルで繰り返せる体制作りみたいなことまで考える、良い機会なのかも。

多くの人が引っかかりを感じた問題点として、試験機1号機に実用衛星を載せてよかったのかという論点がある。

これについては自分も含めて何人かの記者が質問していたが、例えばH-IIBの試験機1号機(2009年)にHTVを搭載したように前例はあり、またH-IIの試験機1号機(1994年)も今回のH-IIA→H3と同じく、旧型のH-Iと比較してフルモデルチェンジといえるほど変えた機体だったが無事に成功している、試験機1号機だからリスクが高いという認識は特に持っていない—という回答だった。うーん。

ポジティブな話題としては、打ち上げライブの映像やCGがかなり洗練されていたのがよかった。かっこいいし状況が分かりやすい。定期的に英語表示に切り替わり、海外の視聴者にも分かりやすい。

あと、以前ディスカバリーチャンネルのDboxに出ていた三村ことみさんがライブ中継のMCを務めていた。ガチでJAXA職員になったらしい。びっくり。

H3

記者説明会に参加。例の半導体スイッチが開になった原因は地上設備からのノイズということで、対策できたとのこと。安心した。厄介そうな現象だったがよく突き止められたなと。ロケットエンジニアはやはり凄い。

細かく言うと、ロケットはX(離昇)-170秒で電源が内部電池に切り替わるのだが、それ以降でも万一のときにいつでも停止できるよう、地上設備とアンビリカルで接続されていて、給電と通信の線が電気的につながっている。X-6.3秒で第1段エンジンに着火して推力が規定通りに立ち上がると「打ち上げ条件成立」となり、ここでアンビリカルの電気的接続が遮断される。今回の問題は、この遮断の際に複数ある電源線・通信線を一斉にオフするシーケンスになっていたため、過渡現象によるノイズが複数の線で同時に発生し、これが第1段制御機器に入り込んでFPGAを誤作動させ、内部電池とエンジンコントローラをつなぐスイッチを開にしてしまったという現象だった。

よって、アンビリカルの複数の配線を一斉ではなく時間差を付けて遮断するようにして、過渡現象によるノイズが重なり合わないようにする対策がとられた。

過渡現象の身近な例は、家電製品の電源をオンにしたままでプラグを抜くと火花が飛ぶというあれ。回路の中にあるコイル(インダクタンス)は磁場の変化率に比例する逆起電力を発生させるという電磁誘導の法則により、いきなり電流をカットすると大きな逆起電力が生じる。

打ち上げウィンドウは3/6(月)10:37:55-10:44:15 JST。天気予報が曇りっぽいが、無事に上がって欲しい。日本の宇宙開発の次の20年を担う基幹ロケットだし、まあ上がるでしょ、という気持ちと、試験機1号機なのでこれからもしばらくはいろんなことが起こりうるし、あんまり一喜一憂してもしょうがない、冷静に長い目で見守りましょうという気持ち。

共同通信の例の人は今日もいなかった。JAXA関係にはもう来ないのかな。

JAXA宇宙飛行士

今回は2名選抜。月(または月ゲートウェイ)へ行く世代なのでもう少し採るかと思った。今回は14年ぶりの募集だったが、今後は5年ごとに募集するとのことなので、これから増えていくのだろう。

まだ一応宇宙飛行士「候補」なんですね。今後2年間の訓練結果を評価して正式に宇宙飛行士に認定予定。

46歳の諏訪さんが選抜されたのは驚き。これまでの採用時最年長は油井亀美也さん(当時39歳)。毛利衛さんが最年長かと思っていたが、毛利さんは採用時37歳だった。

真剣に宇宙飛行士を目指して応募し、落ちて涙を呑んだ人も多いようだが、宇宙に行くには国家機関の宇宙飛行士になるしかないという時代はそろそろ終わる気もする。サブオービタル宇宙船やLEOの宇宙ステーションを運用する民間企業が今後も増えるはずなので、あと100年以内には、船舶や飛行機の操縦と同じようにただの免許制になるのではなかろうか。サブオービタル飛行までできるのが第一種宇宙船操縦免許、LEO周回までできるのが第二種、月・火星まで行けるのが第三種、みたいな。

あるいは自ら操縦しなくても、乗客として乗れる民間宇宙船も増えるし、そういう宇宙船の乗員や宇宙ステーション常駐で働く職種もたくさん生まれるはず。人が宇宙へ出るさまざまなパスができ、今の10代・20代の人たちには選択肢がかなり増えるはずなので、今回落ちたからってあまり悲観しなくてもいいのでは、と思っている。

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