月末の地獄を味わっている。仏様も背を向けるのみ。仕事はありがたいが、〆切が重なるのがどうにも…。

米国がチリに建設したヴェラ・C・ルービン天文台のファーストライト画像が出た。
M8, M20 であることが最初分からなかった。
ルービン天文台のシモニイ・サーベイ望遠鏡は口径8.4m。主鏡・副鏡・第3鏡という非球面鏡3枚で反射させ、さらに補正レンズを3枚通して五収差をすべて補正している。図の通り、副鏡の遮蔽が結構大きいので、有効口径は6.4m相当。

サーベイ専用望遠鏡なので、とにかく広視野であることに特化している。f/1.23。32億画素のほぼ円形写野のモザイクカメラで、視野角は3.5度(9.6平方度)。この手の広視野カメラはすばるの HSC が一番広かったはずだが、あれは1.77平方度。こちらの方が5倍くらい広い。16倍とかの高倍率双眼鏡が同じくらいの実視界なので、双眼鏡レベルの広視野を口径8mで一度に撮るという、想像しがたい性能。
これほど大口径・広視野の明るいカメラなので、1写野当たり30秒露出のワンショットで r 等級24.5等まで写るといっている。1か所30秒で撮って次の写野を5秒で導入、という動作を繰り返し、数夜で全天をサーベイする。これを10年間ひたすら繰り返すというストイックな望遠鏡。ただし全観測時間の10%はレギュラーのサーベイ以外の用途にも使うらしい。
撮影データ量は1晩で20TB。過去の撮影画像とリアルタイムで比較し、いつもと違うものが写っていたら60秒以内にアラートを配信する。まあ新星・超新星とか彗星・小惑星とかAGNとか飛行機とかいろいろ写るのだと思うが、アラート数は1晩で1000万件(!)になると推定されている。
べらぼうだなと思ったが、パロマー天文台の望遠鏡でおこなわれている ZTF というサーベイプロジェクトでも、すでに1晩当たり100万件のアラートを出しているそうなので、まあ10倍という感じ。
1000万件全部が新天体ではなく、ノイズなども相当含まれているので、生のアラートデータをまた自動処理でふるい分けて意味のありそうなものだけ再配信する「ブローカー」というチームが複数あるらしい。ZTF のアラートのブローカーも既にある。TNS に報告するのはそういう人たちなのかな。
ということで、元のアラートが現状の10倍になるので、TNS に報告される突発天体数も10倍になるかも。今は TNS の AT 番号がそのまま超新星の符号になるが、1年当たりでアルファベット4つ(AT 2024aaaa とか)まで使われているので、元アラートが10倍になるなら今後はアルファベット5個の符号が登場するかも。
ファーストライトの公開画像では、総露出10時間で新小惑星が2104個見つかったと言っている。現状では、年間の新小惑星の発見数は2万個くらい。ルービンでは最初の2年で数百万個の新小惑星を見つけると見積もっているので、新星・超新星だけでなく、移動天体やNEOの捜索でもゲームチェンジャーにはなるのだろう。
とはいえ、チリの緯度から見えない空は見えないので、これで何もかも終わるわけではない。