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「星ナビ」2024年1月号

年末恒例特集「星のゆく年くる年」で、2023年の天文学・宇宙開発のトピックを執筆いたしました。よろしければご覧ください。

Starshipの打ち上げがちょうど原稿作成に重なり、結果をぎりぎり盛り込むことができた。

この時期のあるある。今年が西暦何年で来年が何年かが分からなくなる。

来年1月20日にJAXAの月着陸機「SLIM」の着陸があるので、まずはこれが2024年の大きな話題になりそう。

成功すればもちろん日本としては初、世界で5か国目(ソ米中印の次)になる。SLIMの新規性としては、「世界で初めて、着陸予定地点に100m精度で降りる」という目標がある。これまでの月着陸では、各国とも着陸楕円(landing ellipse)をだいたい数kmから十数kmの直径でしか設定していない。火星でも、NASAの「パーシビアランス」の着陸楕円は7.7×6.6kmで、着陸地点は楕円中心から1.7kmずれた。

これまではとにかく軟着陸の成功が最優先で、「どこに」降りたいということはあまり重視されてこなかった。しかしこれからの月探査では、「リモートセンシングで氷や洞穴がありそうだと分かっているここにピンポイントで降りたい」といった動機が生まれてくるはずなので、その技術をいち早く確立しましょうという狙い。地形を画像で捉えながらピンポイントで降りる技術は、はやぶさ/はやぶさ2ではすでにできているが、月は小型小惑星より重力がずっと強く、着陸機の周回速度も速いので、かなり難しくなる。

『星ナビ』2023年12月号

忘れていましたが、11月4日発売の『星ナビ』最新号で、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」のカプセル帰還・開封についての記事を書きました。よろしければご覧ください。

「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料は5.4gだが、今回「OSIRIS-REx」が持ち帰った小惑星ベンヌの試料は推定で200g以上。これまでに70.3gを回収したが、試料の大半が入っている「採取ヘッド」が引っかかって開かず、まだ全量の回収には至っていない状況。

試料が地球大気で汚染されないように、開封作業は窒素ガスを満たしたグローブボックスの中で行われている。このグローブボックス内では大きな工具は使えないし、試料に熱や衝撃を与えて変質させるリスクも避けたいということで、開かないから電動カッターで切りましょうとかドリルで穴を開けましょうというわけにはいかないようだ。取り出し方法のメドが付くまで、採取ヘッドはいったん別の気密バッグに移されたとのこと。

タイガースとハレー彗星

1985年の阪神優勝は今でも覚えている。西武沿線に住み、父も西武を応援していたのでうちはライオンズファンだった。しかしバース・掛布・岡田のバックスクリーン3連発に象徴されるように、あの年のタイガースの勢いは広岡西武をもってしても止められなかった。テレビ中継に映った西武球場のスタンドが 4/5 くらい黄色で埋め尽くされ、一角だけがかろうじて青色だったのを見て、あ、これはやられるかもな…と思った記憶がある。(翌’86年に森祇晶監督が就任して西武は黄金時代を築くわけですが)

今年のタイガース日本一はあれから38年ぶりとのことだったが、’85年の日本一のときも「38年ぶり」と言われていたのをよく覚えている。また、翌1986年はハレー彗星が回帰した年であり、ハレー彗星の公転周期は約76年であり、76は38の倍数である。…というようなことを一度に思い出し、以下のツイートをしたらなんかバズった。

ハレー彗星の次の遠日点通過日は、ステラナビゲータ12で見ると上記の通り2024年4月30日頃なのだが、巷では来月、つまり12月に遠日点を通過するという報道もある。

「12月に遠日点通過」という根拠は、NASA JPLが運営している太陽系小天体の軌道計算サービス「Horizons」で、12月9日に遠日点を通過するという計算結果になっているためだと思われる。

(下記の「RG」が日心距離 (au))

2460279.500000000 = A.D. 2023-Dec-01 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716759959480E-01 RG= 3.514345628359334E+01 RR= 1.836580548681551E-06
2460280.500000000 = A.D. 2023-Dec-02 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716859271099E-01 RG= 3.514345800312073E+01 RR= 1.602469834265242E-06
2460281.500000000 = A.D. 2023-Dec-03 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716945060848E-01 RG= 3.514345948852419E+01 RR= 1.368332600544721E-06
2460282.500000000 = A.D. 2023-Dec-04 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717017327173E-01 RG= 3.514346073977681E+01 RR= 1.134168039206016E-06
2460283.500000000 = A.D. 2023-Dec-05 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717076068467E-01 RG= 3.514346175685078E+01 RR= 8.999750295097015E-07
2460284.500000000 = A.D. 2023-Dec-06 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717121283044E-01 RG= 3.514346253971692E+01 RR= 6.657521159755958E-07
2460285.500000000 = A.D. 2023-Dec-07 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717152969128E-01 RG= 3.514346308834445E+01 RR= 4.314974951278986E-07
2460286.500000000 = A.D. 2023-Dec-08 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717171124826E-01 RG= 3.514346340270063E+01 RR= 1.972090148362347E-07
2460287.500000000 = A.D. 2023-Dec-09 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717175748114E-01 RG= 3.514346348275036E+01 RR=-3.711580686817683E-08
2460288.500000000 = A.D. 2023-Dec-10 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717166836813E-01 RG= 3.514346332845598E+01 RR=-2.714797389564527E-07
2460289.500000000 = A.D. 2023-Dec-11 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717144388579E-01 RG= 3.514346293977685E+01 RR=-5.058857619174909E-07
2460290.500000000 = A.D. 2023-Dec-12 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717108400893E-01 RG= 3.514346231666939E+01 RR=-7.403369573132756E-07
2460291.500000000 = A.D. 2023-Dec-13 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029717058871057E-01 RG= 3.514346145908688E+01 RR=-9.748363550016134E-07
2460292.500000000 = A.D. 2023-Dec-14 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716995796206E-01 RG= 3.514346036697968E+01 RR=-1.209386742254793E-06
2460293.500000000 = A.D. 2023-Dec-15 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716919173325E-01 RG= 3.514345904029562E+01 RR=-1.443990437959706E-06
2460294.500000000 = A.D. 2023-Dec-16 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716828999284E-01 RG= 3.514345747898049E+01 RR=-1.678649049393227E-06
2460295.500000000 = A.D. 2023-Dec-17 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716725270887E-01 RG= 3.514345568297898E+01 RR=-1.913363220981803E-06
2460296.500000000 = A.D. 2023-Dec-18 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716607984937E-01 RG= 3.514345365223569E+01 RR=-2.148132418104414E-06
2460297.500000000 = A.D. 2023-Dec-19 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716477138300E-01 RG= 3.514345138669641E+01 RR=-2.382954761893252E-06
2460298.500000000 = A.D. 2023-Dec-20 00:00:00.0000 TDB 
 LT= 2.029716332727998E-01 RG= 3.514344888630954E+01 RR=-2.617826949074958E-06

はじめ、Horizonsとステラナビゲータでずれるのは元にした観測データの違いかと思ったが、それにしても4か月もずれるのは大きすぎる気がして、ステラナビゲータの中の人に聞いてみた。

周期彗星の軌道は楕円で、面積速度が保存されるように運動するというのがケプラーの法則だが、これは太陽と彗星の二体問題だと仮定した場合の話で、実際には他の惑星から受ける重力もあり、彗星核自身が物質を放出した反作用で力を受けるとか、太陽光から光圧を受けるとか、いろんな摂動が働くので、厳密にはケプラー運動から常にずれている。

Horizonsの計算はこうした摂動を考慮しているが、ステラナビゲータではハレー彗星の位置は単に、「直前の近日点通過ごろのある時刻における位置・速度を初期条件として求まる楕円軌道」に従ってケプラー運動する、というふうに扱っている。要は一般向けシミュレーションソフトとして、膨大な数の天体を「そこそこの精度で高速に」描画することを優先させている。…というのが、「1回帰ごとに1種類の接触軌道要素を使っている」の意味。まあそんなわけなので、計算精度としてはHorizonsの方が信頼でき、遠日点通過は12月9日が正しい。

『オッペンハイマー』日本公開?

『TENET』などで字幕の科学監修をされている東工大の山崎詩郎さんのツイート。

いよいよ日本でも公開か、という期待が膨らむ一方、「いやいや、配信や円盤化向けの作業でしょ(=映画館で公開されるとは限らん)」という見方もあり。

紙束の一番上に見えている “AMERICAN PROMETHEUS” というのは、映画の脚本の下敷きとなったJ・ロバート・オッペンハイマーの評伝らしい。

さんざん待ってビデオスルーだったら悲しすぎるな。

クマ

日高市と入間市でも出没の報あり。狭山は広大な山林を背負っている地形ではないが、隣の市で出たとなると気になる。

日高市大字清流はいわゆる日和田山のあたり。

入間市仏子は加治丘陵に近いので、そこから移動してきたのかもしれない。どちらもうちから10km圏内。

行動範囲

GPS首輪を使った調査では、1頭のクマの行動範囲は山間部のどんぐりが豊作の年には2-3km四方くらいだが、凶作の年にはクリなどを求めて標高の低い方へ15kmほども移動するとのこと。

「ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する」森林総合研究所, 2011

藪などで見通しの悪い河川敷、河岸段丘の雑木林などがクマの移動経路になる(ので刈払いをした方が良い)という話がある。どちらも我が市にはあるな。

クマが柿や栗の実、どんぐりを好むことは知られているが、意外なところでは「油」が好きらしい。油が揮発する臭いが針葉樹の樹脂に似ているので、燃料やペンキなども好むという。うちの庭にも使いかけの塗料が放置してある。水性塗料ではあるが、始末しておくか。

熊害とどんぐりの豊凶

ニュースなどでは連日クマの出没や人的被害の報道があり、今年は山地のどんぐりが不作だから…というようなことも言われているが、一次資料を見ると全国的に不作の傾向があるかどうかは何とも言えない。山地を持つ各県では山の堅果類の豊凶を9月くらいに速報しているが、富山・新潟は凶作、長野は例年並み、栃木はおおむね良好と言っている。また、一つの県内でも場所によって豊凶にはかなりばらつきがある。これらのデータを見る限り、今年の全国的傾向としてどんぐりが凶作かどうかは、簡単には結論できない。そういうコメントの類はおおむね眉唾なのではと思われる。

今年は猛暑の記憶が強いが、暑い年はどんぐりが凶作になるのかというと、そういうことでもないらしい。大まかには、日照よりも降水量の方が強く効き、梅雨時の降水量が少なく夏の日照が多い年に豊作になるという傾向があるようだが、強い相関があるとまでは言えそうもない。

「どんぐりの豊作は予測できる?」渡辺展之, 『調査館通信』35号, さっぽろ自然調査館, 2010

分布

山地ならどこにでもいるわけではなく、九州や四国西部にはいない。伊豆半島や千葉県にもいない。伊豆や南房総にはそれなりに深い森林があるので意外。ただし、オレンジ→赤の範囲から分かる通り、平野部に向かって分布は着実に拡大している。

クマ類出没対応マニュアル -改定版- || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]

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