Taylor Swift

Speak Now (Taylor’s Version) !

7月7日に出るらしい。

彼女の曲名やアルバム名で見かける (Taylor’s Version) とは、過去作の再録音版である。テイラーはこれまでにアルバムを10枚出しているが、6枚目をリリースした2018年の末に、それまでのレコード会社Big Machine Recordsからユニバーサル系列のRepublic Recordsに移籍した。6枚の原盤権はBig Machineが持っていた。その直後にBig MachineはScooter Braunという人物に買収され、6枚の原盤権もBraunの手に渡ってしまった。テイラーは原盤権を買い戻そうとしたが、法外な金額を吹っかけられた。要するにBraunは音楽には興味がなく、Big Machine Recordsとそれに付随する知財を転売して儲けるのが目的だった。それでブチ切れたテイラーが、「じゃあいいわ、自分で6枚再録音して売るわよ」と言って自分が原盤権を持つ形で再録音・リリースしたのがTaylor’s Version。略してTVとも呼ばれる。対するオリジナル版はStolen Versionと呼ばれたりする。

現在までに、2nd「Fearless (Taylor’s Version)」と4th「Red (Taylor’s Version)」の2作が発売され、このたび再録3作目の3rd「Speak Now (Taylor’s Version)」の発売がアナウンスされた。収録曲の曲名にも全部 (Taylor’s Version) が付いている。基本的にオケも含めて完コピで再現しているが、一部歌詞が変わっていたりもする。TV版には新曲や別バージョンも収録され、オリジナル版よりお得なのが通例。

残る3作のアルバムも再録音される予定だが、年齢とともに声も変わっていくので、計画を完遂するのはなかなか大変だろう。それでも泣き寝入りせず、全部再録して自分のものにするという発想が凄い。テイラーは嫌なところが全くない人だと思うが、なぜか一部の人から蛇蝎の如く嫌われ、文字通り “snake” と呼ばれたり、いろんな喧嘩を売られたりいじめられたりしてきた。だが、売られた喧嘩は全て買い、その全部に勝っている。そして経験したことを曲に書いてヒットさせる。凄い人です。

「Speak Now (Taylor’s Version)」で再録されるであろう「Mean」もたぶんそういう体験から生まれた曲の一つ。”mean” に「意地悪」という意味があることと、米国でも“ぼっち”やいじめられっ子の「便所飯」があることをこのMVで知った。

Starlight (Taylor’s Version) / Taylor Swift

シングル曲ではないが、「Red (Taylor’s Version)」の中でこれも好きな曲の一つ。テイラーは情念とか怒りとか別離の悲しみを曲に転化した作品も多いが、これは爽やかで若々しいラブソング。

若い頃のロバート・ケネディ夫妻を写した写真から二人の出会いの物語を膨らませて書いた曲だという。「1945年の夏」というフレーズは日本人にとっては重すぎて、こんなふうに詞の中でからりとは使えないだろう。良くも悪くも今のアメリカ人の女の子だなという印象。

それはともかく、”Like we’re made of starlight, starlight” “Like we dream impossible dreams” という詞の繰り返しが良い。恋愛の曲ではあるのだが、不可能な夢を見ようじゃないかと言う詞は何だか科学や宇宙の世界にも良く似合う。私たちの身体を作っている水素・ヘリウム以外の元素は太古に恒星の内部で合成されたものなので、”Like we’re made of starlight” というのはだいたい合ってる。

All Too Well (10 Minute Version) / Taylor Swift

テイラー・スウィフトはいいな、と最近突然思うようになり、1stアルバムから1枚ずつ買って真面目に聴いている(いまだサブスクではない人)。YouTubeで新しい曲も聴いている。

『1989』まで買って聴き、この人のポップアイコンとしての姿は一面にすぎなくて、本質的にはずっとカントリーミュージックの人だということを深く納得した。

Shake It Off」「Blank Space」「You Belong With Me」「We Are Never Ever Getting Back Together」「Red」などなど、全人類に受けるポップミュージックを次々に生み出す才能も凄いが、『Red (Taylor’s Version)』に収録された「All Too Well (10 Minute Version)」が一番好き。これがテイラーのキャリアで最高の一曲という人は多いらしい。分かる。「Billboard 1位を取った最も長い曲」のギネス世界記録にもなっている。

英語がそんなに聞き取れないので、洋楽を聴いて泣くようなことは今までなかったが、これは泣いた。聴くたびに泣ける。夜中のキッチンで冷蔵庫の光に照らされて二人で踊るという描写と、彼がもう来ないと分かっていながらドアを見て待っている「私」を見て、父親が「21歳の誕生日を迎えるってのは楽しいことのはずなんだが」と言う場面。あと、最初と最後に出てくるスカーフ。この曲はほぼ彼女の実体験に基づいていると言われるが、よくこんな詞が書けるなと思う。

歳の離れた二人の破局を描いた曲だが、親兄弟とか通りすがりのどっかの女優とか、二人の恋愛に関係しない第三者がこんなにたくさん出てくる曲は珍しい気がする。すごく映画的。実際、この詞を元にしたショートフィルムがテイラー自身の脚本・監督で制作されていて、グラミー賞のベストミュージックビデオ賞やMTV VMAを受賞している。

テイラー・スウィフトがいいのは、曲が大変分かりやすいこと。「All Too Well」もI→V→vi→IVの循環がひたすら続く、いわゆるポップパンク進行。世界的に流行っているコード進行だが、テイラーのこの進行の曲は20曲以上あるらしい。カントリーの弾き語りをずっとやっていた人ならではという感じ。

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