• 昨夜からアクセス数がバーストしている。山田五郎氏の癌公表の影響で、五郎さんの YouTube について書いた以前のページがアクセスされているっぽい。

    今回の動画をアップロードされた直後に見て、まぁショックも受けたが、病とはこのように誰の身にも平等にいきなり訪れるもの。ただただ、回復を祈っております。

    今回の報道で動揺している人は、ハンス・ホルバインの回でメメント・モリや髑髏の「死の舞踏」の画題について五郎さんが解説された部分をもう一度見るとよい。「死の舞踏」の版画がペスト患者の病棟に飾られ、患者たちの救いになっていたという話。こういう教養をお持ちの方だから、外野の我々なんかよりずっと穏やかだろう。

    コメント欄に、ワクチンのせいで「ターボ癌」が増えているとか、○○の療法が効くとか、ここぞとばかりに書き込む善意の愚者たちがいて、俗世間の縮図だなぁと興味深く思った。

  • 来週。

    • 10/7(月)18:30 医学生理学賞
    • 10/8(火)18:45 物理学賞
    • 10/9(水)18:45 化学賞

    CEST と JST の変換がいつも分からない。CEST+7h=JSTらしい。UTで書いてくれないか。

    恒例の、物理学賞で天文がとるかという話だが、最後に天文分野に出たのは2020年、Penrose, Genzel, Ghez でブラックホールの理論と観測だった。2021年は複雑系物理(気象予測の真鍋先生もなぜか受賞)、2022年は量子もつれ・ベル不等式などの量子情報実験、2023年は光アト秒パルスの実験。確かに、そろそろ天文でまた出てもいいタイミングではある。

    天文分野の候補リストは去年も書いた。補足して再掲。

    「そろそろ獲るのでは or 俺が選考者ならこの人にあげる」リスト2024

    • 重力レンズ像 (SBS 0957+561) の発見
      • ただし発見者の Walsh は2005年没。獲るなら別の人になる。
    • 宇宙の大規模構造の発見
      • CfAサーベイの Huchra & Geller (1998) が有名だが、Huchra は2010年没。
      • ノーベル物理学賞の「予言賞」とも言われるウルフ賞物理学部門では、2015年に Kirshner が「Ia型超新星を使った観測的宇宙論」で受賞している。Kirshner は加速膨張を発見してノーベル賞を獲った Schmidt, Riess の師匠。1981年に銀河の赤方偏移サーベイで「うしかい座ボイド」を発見しており、これはCfA第1期サーベイと同時期で第2期サーベイよりは早いので、Geller とセットで「大規模構造の人」としてもらうかもしれない。
    • 冥王星以外の海王星以遠天体 (1992 QB1) の発見
      • Jewitt & Luu (1992)。人類の「太陽系観」を更新させたという意味で、個人的には一番獲ってほしい二人。
    • Gunn-Peterson の谷の検出
      • 1965年にこれを予言した Gunn と Peterson も、ともに存命。
      • SDSS の観測でこれを検出したのは Becker et al. (2001)。宇宙の晴れ上がりの後に暗黒時代があり、最初の天体によって水素が再電離されたという現代宇宙論の根本教義を裏付ける重要な発見。
    • 宇宙論パラメータの決定 (WMAP)
      • 宇宙年齢138億年など、各パラメータをほぼ3桁の有効数字で決めた功績 (Spergel et al., 2003) は大きい。
      • WMAPは他の賞をいろいろ受賞済み。ノーベル賞を獲るとしたら PI の Charles Bennett と、Lyman Page, David Spergel あたりになりそう。
    • バリオン音響振動の検出 (SDSS)
      • Eisenstein et al. 2005。ビッグバンモデルの正しさを示す強い証拠の一つ。
    • よく分からないが Martin Rees
      • 南部や Peebles と同じく、偉い人すぎて何が最大の業績なのか分からないというタイプの人。2024年のウルフ賞物理学部門を受賞。受賞理由は「高エネルギー天体物理学、銀河、構造形成、宇宙論における基礎的な貢献」。いやもう全部じゃん。

    こうして見ると、「銀河サーベイ」というくくりでCfAサーベイ (Geller) と SDSS の誰かに出してもいい気がする。SDSS を代表する人物というのはよく分からないが、やはり James Gunn だという説もある。2019年の京都賞は Gunn が受賞している

    「いつか獲るかもしれないが今じゃないだろう」リスト

    • インフレーションモデル
    • ブラックホールシャドウの直接撮像 (EHT)
    • 重力理論と量子論の双対性の発見(ブラックホール熱力学、ホログラフィー原理、AdS/CFT対応)

    といろいろ書いたが、個人的にはそろそろまた工学分野にぽこんと出すのではという気もする。2014年の青色LED(赤崎・天野・中村)以降、工学には出ていない。世界を変えたという意味では昨今の Transformer ベースの AI なども大きいが、そこまでいくと、もはや全く物理ではないただの情報科学なので、さすがにないだろう。AI に出すならインターネットの発明にも出さないと不公平だろう。

    「笑点」の次の大喜利メンバーみたいに、根拠がないまま無責任にあれこれ予想するのは楽しい。

  • 前々職でお世話になった方の退職・還暦祝いのパーティーに参加。実際の退職は3年前だが、コロナ禍で対面での会合ができず、延び延びになっていたのを改めてやりましょうとなったもの。

    学生上がりの自分に、会社員としてチームで働くとはどういうことか、ものを作るときにはどういうふうに作るのか、といったことを一から教えてくださった、まさに薫陶を受けた師であり、そのことへの感謝を少しでも、直接伝えることができて良かった。思い出話にも花が咲いたし、初対面の方々、久々にお会いする方々とも交流できてありがたい機会だった。

    ある程度以上の年齢になると、やはり常に明るさやユーモアがあるかどうかというのが大事になってくる。年上の人間なんて、いるだけでその場を緊張させるものなので、柔らかく朗らかでいることは本当に大事。そういう面でも自分がずっとお手本にさせていただいた方だった。これからもどうかお元気で。

    会費がそれなりのお値段だったので下の方の人たちが来ていなかったのはまあしょうがないとも思ったが、あれほどの功労者なのに会社のNo.1もNo.2も来ていないのには少し驚いた。まあ、万事がそういう感じだから、今ああいう感じなのだろう。以下略。(言わなくていいことを一言言わずにいられない人)

  • Perfume 8枚目くらいのオリジナルアルバム。円盤は10/30発売、配信は9/20から。40日も待てないのでまず配信で購入した。これはね、名盤ですよ奥さん。前作「PLASMA」より好きかも。

    コンセプトアルバムと銘打っている通り、世界観が統一されていて聴きやすい。ざっくり言えば ’80s・スペーシー・ちょっとファンク。「Time Warp」「ポリゴンウェイヴ」の頃からの傾向を引き継いでいて、たぶん中田先生の中のトレンドとして、2010年代からの Vaporwave、Future Funk、Synthwave といったレトロフューチャー系音楽の流行にヒントを得ているのだと思う。といっても「ヒントを得ている」くらいのもので、作品自体がそういうジャンルに属する曲というわけでは全くない。そもそも歌モノですしね。もっと独特の、良い意味で異物感のある振り切れた音楽になっている。

    このアルバムもそうだが、近年の Perfume はヴォーカルにエフェクトをかけた曲はもうほとんどない。ほぼ生声。あと、これは昔からだが、彼女たちは腹から声を出さない。熱唱しない。「座ってレコーディングする」といつも三人が言っている通り。結果的にピッチが不安定に揺らぐところが出てくる。それがいい。

    今回、英語詞の曲も多いが、その発音も完全にジャパニーズイングリッシュで、英語としてはあんまり上手くない。そのたどたどしさがいい。

    今の J-POP は「束ものアイドル」の時代が去って、技巧と歌唱力の時代にまた戻っていると思う。Ado とか藤井風とか YOASOBI とか、みんなやたら上手いし、ボーカロイドにしか歌えないようなすさまじいリズムと旋律と転調の曲を生身の幾田りらに歌わせたりしている。それもいいんだけど、技巧・歌唱力じゃないところにも感動は生まれるものでしょ、むしろ白紙で提示する方が聴き手がいろんな感情を乗せやすくないですか? という問いを中田ヤスタカは昔からずっと投げかけていて、この「ネビュラロマンス 前篇」では彼の試みがかなり良い到達点を迎えているように思った。

    Perfume の三人の声には危うさや揺らぎがあって、切ない。母親が子供を寝かしつけるときに歌う、決して上手くない子守歌のような、あるいは放課後に女子高生が独り、屋上で夕焼けを見ながら口ずさむ歌みたいな、侘び寂がある。フジファブリックの「若者のすべて」が心を揺さぶるのは、志村正彦のヴォーカルが上手いからではないですよね。あれに近い感覚を今の Perfume の声は持っている。不完全性や壊れやすさを愛でるような、今の J-POP の主流ではないけどきわめて日本的な美意識を中田先生は持っていて、それをうまく具現化したのがこの「ネビュラロマンス 前篇」という気がする。なので、名盤です。

    あと、これは三人の声の神秘なのだが、Perfume の三人は声質がかなり違うにもかかわらず、声をきっちり重ねることができる。完全に重なると、三人のどの声とも違う、第四の人格みたいな別の女の子の声が出現するんですよ。光の三原色を混ぜると白になるみたいな。で、ちょっとだけずらすと、白の端っこに三つの色がちょっとだけ見えたりする。このアルバムの曲でも、完全にユニゾンさせるところと、それぞれの声の個性が際立つところが代わる代わる出てきて、それを追いかけるだけでも楽しい。

    レコーディングでは一人ずつフルコーラスを録って中田氏がエディットすると言っていたので、声の重畳は機材の中でやっているのだと思うが、三人は生で同時に発声するときも完全に重ねることができると言っていた。キリン「氷結」のCM撮影の時だったと思うが、「合わせすぎると一人の声みたいに聞こえてしまうのでわざと少しだけずらす」と言っていたことがある。技巧とは別の評価軸でやっていると書いたが、本人たちのスキルを見れば歌もダンスも技巧の塊みたいな人たちである、という点も忘れてはならない。

    J-POP のメインストリームにはたぶんならないけど、世界の一部で非常に濃いファンが付くような音楽を、中田ヤスタカと Perfume にはこれからも作り続けていって欲しい。「後篇」も楽しみすぎる。

    公式 YouTube チャンネルでアルバム全曲が再生リストとしてフル公開されている。何という大盤振る舞い。もはや楽曲自体で売上を立てる時代は終わったということか。

    今回は本当に全曲いいのだが、「Cosmic Treat」「メビウス」がかなり好き。「メビウス」は JAXA か国立天文台のプロジェクトの公式ソングに今すぐ採用すべき。

  • にて、第2特集「素粒子物理学の未来」を執筆いたしました。監修は村山斉先生です。よろしければご覧ください。

    科学雑誌ニュートン最新号(2024年11月号) 「発達障害の脳科学」 | ニュートンプレス

    米国で素粒子物理学研究の予算を統括しているのはエネルギー省で、どういうプロジェクトに金を付けるかという「骨太の方針」的なものを下部の専門家委員会で5年ごとに決めている。その委員長に村山さんが就任して、昨年末に最新の報告書を取りまとめた。

    この報告書に基づいて、今後の素粒子物理がどういう方向に行くのかをまとめた記事。素粒子分野にどういう未解決問題があるかという科学の話と、もう少し政治的な、限られた予算で米国は今後何をやり、何をやらないのかという話を先生に聞くことができ、大変面白く、勉強になった。

    専門家会議とはいえ、米国政府の方針を決める重要な委員会のトップを村山さんが担ったということ、つまり、そういう役目をやってほしいと研究者コミュニティから頼みにされ、実際に全うできる人が日本にいる、というのも誇るべきことだろうと思います。