• 「COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にした、ヌクレオシド塩基修飾に関する発見」が受賞。本命の一つだが、受賞が早かった。

    https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2023/press-release/

    Karikó と Weissman の2人が受賞となったが、こういうのにありがちな話で、獲るとしたら誰までがもらえるのかで議論もあったようである。

    https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v18/n11/mRNAワクチン完成までの長く曲がりくねった道/109823

    mRNAワクチンの実現には大きく2つのハードルがあった。きわめて分解されやすいRNAをどうやって壊さずに体内まで運ぶかというのと、体にとって異物であるRNAをどうやって免疫系に拒絶反応を起こさせずに体内に届けるかという問題。前者については、脂質ナノ粒子という膜でくるんで入れてやると安定することが分かった。後者については、RNAの塩基の構造をちょっと変えて(メチル基を付けるとかそんなだった記憶)やると免疫系をだませることが分かった。今回の受賞は後者の業績に絞ってこの2人ということになったようだ。

    ヌクレオチドとヌクレオシドの違いがいまだによく分からない。生物学はいまだに高校時代の知識を脳の奥底から掘り起こして何とかいろいろやっている。

  • お問い合わせフォームには、「クリエイティブの素材・アイデア・提案は受け付けない」と書かれている。「当社が独自に製作した作品があなたのアイデアと同じだったときに誤解が生じるのを避けるため」とのこと。

    https://www.universalstudios.com/contact

    京アニ事件のように、作品を持ち込んでボツられた人間が、後から似た作品が出たのを見て「パクられた」と思い込む、という事例は洋の東西を問わず頻繁に起こるものなのだろう。俳句・短歌の世界などを見ても、素人の思い付きがいかに陳腐で凡庸かというのはよく分かる。現代の短歌は逆に差異化合戦みたいになっていて、奇をてらいすぎて何の感動も湧かないというのも多いが。

    なぜユニバーサルのお問い合わせフォームを見たかというと、『オッペンハイマー』を早く日本で公開しろやというメッセージを送ったから。みんなも送ろう。

  • 中秋の名月の時季になると月にいろいろと注目が集まる。

    火星の地名で一番好きなのは「サバ人の湾」だが、月の地名でダントツで好きなのは「既知の海 (Mare Cognitum)」。何が既知なの、意味不明じゃん、と思うわけだが、これは元々名前がなかった海に1964年に命名したもの。他の「静かの海」「雨の海」などは、17世紀にグリマルディとリッチョーリの月面図で使われた名前が現在も使われているので、それらと比べると「既知の海」はなんか浮いている。

    NASAがアポロ計画の前に月面の詳細データを得るために「レインジャー計画」という無人探査ミッションをやったのだが、レインジャー1〜6号はずっと、打ち上げ失敗とか、月に到達できずとか、探査機が故障とかで失敗が続いていた。1964年7月のレインジャー7号でようやく、月面への「硬」着陸(衝突)・大量の写真撮影・撮影した写真の地球への送信をすべて成功させた。これを受けて、「月に関する新たな知識を得られた」という意味を込めてこの名前が命名されたということになっている。

    こういう話も、アポロ計画をリアルタイムで経験した60代以上の天文ファンならそこそこ知っている話なのだろうが、自分は知らなかった。日本語版 Wikipedia でも、

    1964年にアメリカの無人月探査機レインジャー7号が衝突したのは既知の海の領域(南緯10.4度、西経20.6度)であった。

    既知の海 – Wikipedia

    と書かれているが、それは因果関係が逆で、レインジャー7号が降りた場所だから「既知の海」と命名されたわけですね。Wikipedia 日本語版は20年経っても個々の記事はこのくらいのクオリティなので、調べ物にはあまり使う気がしない。

    USGSの天体地名データベースでは、

    Approval StatusAdopted by IAU
    Approval Date1964
    Origin“Sea that has become known.” Ranger VII impact site.
    となっている。「既知になった海」という感じ。日本語で「既知の」というと well-known みたいな感じで、has become known という現在完了形のニュアンスは含まないので、少しずれを感じる。「認知の海」とかだったらよかっただろうか。それもなんか変だな。「新知見の海」とか。

    googleで “Mare Cognitum” を検索すると米国のメタルバンドの情報ばかり出てくるのが辛い。

  • 来週。

    https://www.nobelprize.org/prizes/lists/all-nobel-prizes/

    天文・宇宙物理が来るかどうかは分からないが、「そろそろ獲るのでは or 俺だったらあげるね」リスト2023。

    • 重力レンズ像 (SBS 0957+561) の発見
    • 大規模構造の発見
    • 冥王星以外の海王星以遠天体 (1992 QB1) の発見
    • Gunn-Peterson の谷の検出 (SDSS)
    • 宇宙論パラメータの決定 (WMAP)
    • バリオン音響振動の検出 (SDSS)

    「いつか獲るかもしれないが今じゃない」リスト。

    • インフレーションモデル
    • ブラックホールシャドウの直接撮像 (EHT)
    • 重力理論と量子論の双対性の発見(ブラックホール熱力学、ホログラフィー原理、AdS/CFT対応)
  • リーダーの方がお休みで人手が足りないとのことで、久しぶりに出社。エレベーターのないビルとの間を3往復してバテた。職場もなんか微妙に蒸し暑くて消耗する。

    都心に出るたびに、新しいビルがどんどん建ったり、歩く人たちがみんな若くて綺麗で溌剌としていたりして、地元で仕事をしている自分が世の中から取り残されているような気分になる。そのうちに世間と感覚がどうしようもなくずれて、自分の生み出すものに需要がなくなるのではないかという予感。恐怖心というのとはちょっと違い、じゃあ都会の感覚に必死で付いて行こうとも思わないのだが、自分は「先頭集団」の中にはもういないという実感がある。

    まあ、無借金で暮らせているというのと、親がまだ要介護でないというだけでもありがたい。全然良くないが、とんでもなく悪いというほどでもない。

    原稿を書かないと。