• ずっと行けていなかった皮膚科へ。かゆみに魔法のように効くフェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ)を出してもらう。徹夜仕事でお菓子やポテチを食べると覿面にかゆみが出ることに気づいたので、最近夜食は抑えている。

    手のひらにいぼができたので液体窒素で焼いてもらう。足の指に再発したのもまた焼いてもらった。足は皮が厚くてあまり攻撃が効かないのか、焼いても焼いても出てくる。あるいはいぼじゃなくタコなんじゃないかという見解も先生は言っていた。

    ずっと行けていなかった散髪へ。いつも、長さは1.5cm切って、すそはバリカンで刈ってくれというだけの注文だが、切る人によって髪型が毎回微妙に変わるのが面白い。

    天気が良いので、ベーグルを買って河川敷で風に吹かれながら食べた。うますぎる。


    先日、母用の車をようやく中古で購入。前のオーナーの保管場所標章などが貼られたままだったので、ダイソーでシール剥がしとヘラを買って剥がした。今年から保管場所標章は廃止された。車庫証明の届出は必要だが、前の車と同じ置き場所であれば手続きはなし。


    母の車が失われたのは事故による。母が交差点を直進しているところに対向の右折車が突っ込んだ。母は無事だったが足を負傷してしばらく通院した。事故は3月で、保険会社の諸々の処理が終わったのが9月頃で、下りた保険金で中古車を買い直した次第。

    交通事故は一生に何度もやるものでもないので、家の購入や葬式などと同様、たいていの人には経験がなく、情報不足で戸惑う場面が多い。将来のための備忘録として、まとまらない記憶を書いてみる。

    • 事故で負傷すると、当事者はとにかく救急車で運ばれてしまうので、自走できない事故車の搬入先は警察任せになる。(警察が適当な修理工場のレッカー車を呼んで車が運ばれるので、後日、工場にレッカー代を支払う。このレッカー代は自動車保険でカバーされる。)
      母のケースでは、事故車をどこに搬入したいか、救急車に乗る前に一応警察が聞いてくれたが、気が動転しているので「お任せします」と言うしかなく、警察御用達のちょっと遠い修理工場に運ばれてしまった。行きつけのディーラーや修理工場があるなら、そこに運んでもらうのがよい。
    • 事故現場をたまたま通りがかった非番の消防士さんが救助に協力してくれたが、連絡先を聞けず、お礼ができなかった。ちゃんと聞いておくのは大事。
    • 自動車保険会社は通販型で有名なZ社だったが、ここの事故対応はまあひどかった。
      付き合いのない修理工場に事故車をいつまでも置いておくことはできないので、行きつけのディーラーへと再びレッカー移動した。この移動にはZ社のロードサービスが使えるが、実際にはZ社から下請の地元レッカー会社に処理が丸投げされている。Z社の動きは鈍く、修理工場にもディーラーにも、レッカー車が来る日時の連絡などがされていなかった。
      Z社内部でも、事故担当者とロードサービスの窓口は別になっていて、連携がない。誰に聞けば何が分かるのかが終始曖昧で大変だった。
      最新の顧客満足度ランキングでは、Z社は Top 5 にも入っていないことを後で知った。長年Z社を使っていたが、この機会に自分の車も母の新しい車も別の保険会社に切り替えた。
    • 保険会社は事故処理の一連の流れを詳しく説明してくれない。疑問点はすべてこちらから担当者に聞かなければならない。Z社の担当者はなぜか終始不機嫌で、こちらから質問されることがイヤそうだった。
    • 事故処理には、「治療にかかった医療費の補償」「休業の補償」「車の損害の査定」「示談交渉」などが含まれる。最初に両保険会社の間で当事者の連絡先などが共有されるので、医療費の補償は相手方の保険会社から連絡があり、相手の保険でおこなわれる。
    • 事故車は13年落ちの軽で、中古車としての評価額はおそらく40万円ほど。エアバッグが出てエンジンルームにもつぶれが出ていたので、修理は不可能ではないが100万円を優に超えるという「経済的全損」の状態だった。
      車の補償には、「相手方の保険を使う」「自分の車両保険を使う」のどちらも可能。相手の過失割合が大きいなら相手の保険を使う方がよいはずだが、今回の事故ではなぜか、Z社の担当者は「相手の保険を使うと低く査定されてしまいがちだから、自分の車両保険で補償した方が良い」との説明で、そのように処理した。Z社の査定担当がディーラーに出向いて事故車を査定し、車もZ社が引き取っていった(スクラップにすることで保険金支払いの足しにされる、との話だった)。
      ただし、自分の車両保険を使うと等級が3等級も下がり、今後の保険料が上がる。どちらが得かは慎重に判断する必要があり、素人にはきわめて難しい。ここの判断は間違えたかもしれない。
    • 相手の保険を使うにしろ、自分の車両保険を使うにしろ、車の補償で出る金額は事故車の車種・年式・状態で決まる中古車価格とほぼ同じ額まで。新車を買えるくらい出ると勘違いしている人が母の同僚にもいたそうだが、そんなわけない。もしそうなら、わざと事故を起こして新車に乗り換えることが可能になってしまう。
    • 示談交渉については、最初の段階で保険会社から「私どもに一任していただいてよろしいですか」と確認され、OKすると保険会社間でブラックボックス的に処理が進む。
      まず最初に、「過失割合としてどのくらいの比率を目指しますか?」という聞き取りがなされる。ここで重要なのが、「過失割合として 10:0(=完全に相手が悪い「もらい事故」)を主張したい場合には、保険会社は示談交渉できない」というルールだ。10:0 を主張する示談交渉は弁護士しかやってはいけないという法律がある。10:0 を主張したいと言うと、「では私ども(保険会社)ではやれないので、ご自身でどうぞ」と言われるので、自分で弁護士に依頼する必要がある。そのための弁護士費用には、自動車保険の「弁護士特約」が使える。
    • 交通事故の過失割合には「相場」がある右折対直進事故の場合には、「右折側8:直進側2」が相場とされていて、10:0 を主張するのはなかなか難しいようだ。「直進側にも前方不注意があっただろ」という論理ですね。こんな話も、俺は知らなかった。
    • 10:0 でない場合でも、示談交渉を保険会社に任せずに弁護士を頼んで相手方の保険会社と交渉してもらうことができる。その方が取れる金額は高くなるが、当然弁護士費用もかかるので、トータルでどちらが得かを考える必要がある。弁護士特約の範囲でできるなら手出しの金は発生しないことになるが、こういう話は素人では判断がきわめて難しい。正式な依頼の前に、1時間5,000円とかで弁護士に「相談」をすることができるので、まずは相談だけしてみるのがいいのかも。死亡とか入院とか、損害額が大きい場合には弁護士を入れた方が得かもしれない。

    交通事故の処理では、「どんな選択肢があるか」「どちらが得か」を誰も(保険会社も!)教えてくれない、という場面がたくさんある。焦ってその場で答を出そうとせず、「ちょっと考えます」と持ち帰って、弁護士に相談したり情報を集めたりするのがとてもとても大切。

    今回のことで、織田裕二のこのCMの意味を初めてちゃんと理解した。

  • 「Newton」2025年9月号(7/26発売)で担当させていただいた「言語の進化論」という記事が、朝日新聞デジタル版にも連載記事として掲載されています。(「Newton」が朝日新聞グループ傘下になったため、最近ではこのように一部記事の相互乗り入れが行われています。)

    現在の言語の系統はどうやってできたのか、日本語の起源は何語なのか、といった話題に触れています。有料記事ですが、よろしければご覧ください。

    少し前に担当編集の方から「あの記事を朝日新聞の方にも載せることになりました」と連絡をいただいて、ああそうなんだ、と思って忘れていた。asahi.com の記事のフォーマットに筆者として自分の名前が入っているのにちょっとびっくり。

    担当編集の方のアイデアと、監修していただいた吉岡乾先生のおかげで、なかなか面白い記事になったと思っています。

    元記事を分割して4〜5回の連載にするようなので、あと2、3回載ると思われます。

    日本語の起源については、昭和の頃に国語学者の大野晋が「南インドのタミル語が起源だ」という説を唱えて、一世を風靡した。彼が書いた『日本語の起源』(岩波新書)という本を高校か大学の頃に読んで、へぇと思った記憶がある。しかし、彼はあくまでも言語学者ではなく国語学者で、彼がタミル語起源説を導いた手法も比較言語学の人たちから見るとお話にならず、言語学の世界では大野の説は評価の対象になっていないとのこと。

    共通祖先があると言うためには、ただ似たような形・意味の単語が両言語にあるというだけではだめで、変化の仕方まで含めた厳密な法則性や対応関係が求められる。…というような話も記事で書いています。

  • 春にやったお仕事で、普通に納品してギャラもいただいたのだが、世に出ていないものがある。とある研究機関の web 記事のお仕事だったが、何で出ないのかな、あんまり出来が良くなかったかな、と気になって少し前に先方の担当の方に問い合わせた。

    曰く、あとは公開するだけなのだが、時間が取れない、とのことだった。トランプ政権の影響で、プロジェクトの見直しやら、米国で研究できなくなった人たちの臨時受け入れやら、いろんなことが発生して会議に追われている、と。なかなか大変だ。


    第2次トランプ政権ではいまだ正式なNASA長官が決まっておらず、代理職が続いている。下の Wikipedia の表で色が付いているのが歴代の代理職。

    第1次トランプ政権では政権発足の翌年4月までNASA長官が決まらなかったので、わりとどうでもいいと思っているのかもしれない。

    当初トランプは、Inspiration4 で初の民間人のみによる宇宙飛行をやり、Polaris Dawn で初の民間人の船外活動も成功させた実業家のジャレド・アイザックマンをNASA長官に指名していたが、5月末に取り下げた。アイザックマンはイーロン・マスクと仲良しだったので、マスクが政権から抜けた段階でアイザックマンも排除されたという感じ。アイザックマンはわりとNASAの現場に友好的な人物で、トランプ政権が2026年のNASA予算を対前年比で24%削減し、科学予算に限ってはほぼ半減するという地獄のような案を出したときには反対したと言われている。このへんも政権側は気に入らなかったのだろう。


    米国では10月から会計新年度が始まった。連邦予算は成立していない。つなぎ予算も否決されたので連邦政府の機能が一部止まっている。米国の連邦予算は大統領ではなく議会側に編成の権限があり、大統領案はあくまでも議会が参考にする程度の位置づけらしい。今は上院案・下院案が出ている段階。議会の予算案が可決されると大統領が署名して成立するが、ここで大統領は拒否権を発動でき、そうなると議会側が 2/3 の多数で再可決しないと成立しないらしい。上下院とも共和党が多数だが伯仲しているのでなかなか大変。トランプのNASA予算削減案がどうなるかはまだ全然分からない。科学者たちは反対デモなどの行動をしている


    Ars Technica に予算案の続報が載っていたので訳してみる。とりあえずOSIRIS-APEXは復活する模様。

    トランプの予算削減からNASAの科学ミッションが1件救われ、他はまだ不確定

    「被害は既に生じている。資金が復活しても人材は失われたままだ」

    Stephen Clark – 2025年10月9日 8:56

    NASAは2029年に地球に異例の接近をする小惑星を探査するミッションの科学者に、救いの手を差し伸べた。トランプ政権が計画していたミッション中止の方針を覆すものだ。

    「OSIRIS-APEX」と名付けられたこのミッションは、ホワイトハウスが今年初めに発表した予算案で中止が提案された19件のNASA科学ミッションの一つである。

    アリゾナ大学のOSIRIS-APEX主任研究者、Dani DellaGiustina氏は「私たちは大統領の予算要求の一部として中止を求められていましたが、わずか2週間前に復活し、2026会計年度にミッションを進めるプランが与えられました」と述べた。「探査機は順調のようです」。

    OSIRIS-APEXはNASAの小惑星サンプルリターンミッション OSIRIS-REx の探査機を再利用するものだ。同機は2023年に貴重な地球外物質を地球に投下した。探査機は良好な状態で燃料も十分に残っているため、NASA は別の小惑星「アポフィス」を同機に探査させることにした。アポフィスは2029年4月13日に地球から32000kmの位置を通過する。

    アポフィスの接近通過は、科学者にとっては潜在的な脅威を持つ小惑星を間近で見られる絶好の機会となる。アポフィスは平均半径が約340mの不規則な形をしていて、地球に衝突すれば局地的に壊滅的被害をもたらす大きさだ。この小惑星が2029年や今後100年間に地球に衝突する可能性はないが、太陽を公転するたびに地球軌道と交差するので、長期的なリスクはゼロではない。

    具体的な話をするのは大事

    OSIRIS-APEXは5月までは順調だったが、そこでホワイトハウス当局者がミッション中止の意向を示した。トランプ政権がNASAが運用中の19件のミッションを打ち切るよう提案したのは、10月1日に始まった2026会計年度に対するホワイトハウスの予算要求でNASAの科学予算の約50%を削減する措置の一環だった。

    上下両院の議員たちは科学予算削減案のほぼ全てを否決する動きを見せており、上院案ではNASA科学部門の予算を2025会計年度と同額の73億ドルに維持する一方、下院案では60億ドルに削減している。それでもホワイトハウス予算案の39億ドルという科学予算を大幅に上回っている。

    この夏の一時期、トランプ政権が任命したNASAの官僚たちはトランプの予算削減が実施されるという前提で来年の計画を立てるよう管理職に指示していた。しかし先月、ついに彼ら官僚は方針を変え、下院の歳出法案に従うよう職員に指示した。

    上下両院はまだ最終的な予算額で合意にいたっておらず、トランプ大統領の署名を得るための歳出法案をホワイトハウスに送付していない。これが、連邦政府が先週から一部閉鎖された理由だ。閉鎖されているにもかかわらず、地上チームはまだNASAの科学ミッションを運用している。中断すれば取り返しの付かない損害が生じるおそれがあるからだ。

    下院案ならNASAの計画の大半が救われるはずだが、それでもなお、NASA科学プログラムが昨年得た金額よりは13億ドル少ない。つまり、一部は削減を免れないということだ。トランプ政権が終了対象とした他の運用ミッションの多くが、依然として削減の俎上にある。

    OSIRIS-APEXがこの運命を逃れた理由は単純だ。議員たちが下院予算案の中で2000万ドルを特別計上 (earmark) したためである。他のほとんどのミッションはこれと同様の特別扱いを受けられなかった。OSIRIS-APEXは議会に味方がいたようだ。

    下院予算委員会は、NASAが2026会計年度においてOSIRIS-APEXに2000万ドルを拠出することを明記した。

    トランプ政権が中止を望みながら、下院予算案で同様の特別計上を受けた唯一の運用ミッションが、「磁気圏マルチスケールミッション (MMS)」である。このミッションでは2015年から4機の探査機群が地球磁気圏を調査している。議員たちは2026年のMMSの運用に2000万ドルを拠出する意向だ。Ars は水曜日の時点ではMMSミッションの状況を確認できなかった。

    トランプの予算削減案で中止とされている残り17件のミッションは依然として宙ぶらりんの状態だ。政権がこれらのミッションの中止に進むかもしれない懸念材料がある。今年初め、NASAは中止のリスクがある19件のミッションの責任者に対し、ミッション終了に向けた予備計画を作成するよう指示した。

    あるプロジェクトの科学者は Ars の取材に対し、NASAが最近、今年末までに探査機を「活動停止 (passivate)」させるためのより詳細な「終了計画」を求めたと明らかにした。これはNASAが夏に求めた終了計画よりも一歩進んだ措置だ。活動停止とは宇宙機の標準的な最終措置であり、技術者は残存燃料の放出とバッテリーの放電を指令し、完全に無反応状態にする。これにより、誰かが再び通信を試みてもミッションは回復不能となる。

    この科学者は、NASAの資金が昨年の水準まで回復し、ミッションを中止から守る文言が盛り込まれた予算が成立するまでは、終了対象のどのミッションも危機を免れないだろうと述べた。

    既に生じた損害

    OSIRIS-APEXは再びアポフィス探査にゴーサインが出たものの、DellaGuistina氏は予算削減によって苦渋の選択を迫られたと述べた。このミッションの科学チームは2027年のある時期まで「基本的には休止状態」にあり、少なくとも今後1年半は一切の計画策定に参加できない。

    この状況は、OSIRIS-APEXがアポフィスで発見する事物のための訓練をする目的でミッションに参加した若手科学者に大きな影響を与えていると、DellaGuistina氏は火曜日の全米科学アカデミーのアストロバイオロジー・惑星科学委員会の会合で述べた。

    「アポフィスでの科学観測を減らす必要はないと見込んでいます」と彼女は語った。だが予算削減は、2020年に小惑星ベヌーに短時間着陸してサンプルを採取したことで汚れた探査機の科学装置を再較正するような作業には影響がある。

    「確実に私たちの準備態勢は損なわれています」とDellaGuistina氏は述べた。「しかしそれでも、予算が復活したのは喜ばしいことです。現時点では、これ以上の結果は望めないと思います」。

    予算削減によるもう一つの影響は、探査機運用に関する専門知識が流出してしまっているという点だ。OSIRIS-APEX(元OSIRIS-REx)はロッキード・マーティン社で製造され、太陽系内を飛行する同機へのコマンド送信とテレメトリの受信も同社が担当している。予算削減によって、ロッキード社の技術者の一部が惑星科学ミッションから軍事宇宙プログラムなどの別分野に異動した。

    NASAの決定を待っている運用中ミッションには、チャンドラX線天文台、星間空間に向かって飛行中のニューホライズンズ、火星の大気を調査しているMAVEN、そして地球の気候を監視しているいくつかの衛星などがある。

    これらのミッションの将来は依然として不透明だ。あるプロジェクトの上級幹部は、彼らには「別途指示があるまで運用を続ける」ということ以外に「まったく指示がない」と述べている。

    ホワイトハウスが中止を望んだ他のミッションの一つが、2機の探査機が月を周回して月の磁場をマッピングする「THEMIS」だ。このミッションの主任科学者、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のVassilis Angelopoulos氏は、彼のチームは2026会計年度に「部分的な資金提供」を受けると述べた。

    「これは良い知らせだが、一方で科学研究者への資金が打ち切られるということでもある」とAngelopoulos氏は Ars に語った。「結果として米国は、技術開発に投じてきた数十億ドル規模の投資から得られるはずの科学的成果を十分に得られていません」。

    数字で示すと、科学支援団体の「惑星協会」によれば、すでに宇宙に打ち上げられているミッションでトランプ政権が中止を望んでいるものには、設計と製造に累計で120億ドルの投資がされている。Ars の試算では、中止予定の運用中ミッションに使われる税金は年間3億ドル未満で、NASAの年間予算の1〜2%である。

    NASAの科学プログラムの支持者たちは今週、米議会議事堂に集まり、この脅威を訴えた。Angelopoulosさんは、科学者や一般市民からの抗議が効果を上げているようだと述べた。

    「下院予算案が出たことは、有権者の圧力が効果を発揮しつつある証拠だとみています」と彼は言った。「残念ながら、すでに損害は生じています。たとえ資金が復活しても、すでに人材は失われています」。

    一部の科学者は、たとえ議会が予算を承認しても、トランプ政権が特定のプログラムへの資金提供を保留しようとするかもしれないと懸念している。そうなれば法廷闘争になる可能性もある。

    MAVEN火星ミッションの元主任科学者であるBruce Jakosky氏は、この懸念を挙げている。彼は、NASAが現在、下院の提示した予算案を前提に計画を進めているのは「前向きな一歩」だと述べた。だが、問題が一つある。

    「たとえ議会が可決した予算が法律として成立したとしても、大統領は法的に義務づけられた支出をしないことにためらいをまったく見せていない」と、Jakosky氏は Ars へのメールで書いている。「つまり、予算が成立しただけでは終わりではなく、MAVENの科学・運用チームに資金が配分されたとしてもそれで終わりではないのです——資金が実際に使われて初めて、取り消されないという保証が得られるのです」。

    「つまり、不確実性は会計年度全体を通じて私たちに付きまとうということです」と彼は述べた。「この不確実性が士気の低下を招くのは間違いありません」。

    (訳出終わり)


    earmark というのは「家畜の耳に付ける目印」という意味で、そこから「資金の中で特別に確保しておく使途」のような意味があるらしい。連邦予算の採決を巡っては、ロビイングで議員に取り入って特定項目に予算を付けてもらう earmark が常態化していると。OSIRIS-APEX のグループにはそういう政治が上手い人がいたということか。キナ臭い世界だ。

  • 物理学賞は電気回路における巨視的量子トンネル効果とエネルギーの量子化の発見。

    ジョセフソン素子など、巨視的と言えるスケールでも量子論的な効果が現れる現象を発見した業績に対してということらしい。将来の量子コンピューターの素子として期待されている超伝導量子ビットにも関連する業績らしい。

    加藤岳夫さん(東大物性研)の連ツイが参考になった。埋め込みだと連ツイが見えないので web ブラウザで。

    天文宇宙来るかなぁと思ったけど、そういえば今年は量子力学100周年だった。そういう要因もあっての選考かも。


    化学賞は金属有機構造体 (MOF) の開発。

    MOFは金属のイオンと有機分子が組み合わさった多孔質の物質で、ゼオライトや活性炭のような素材と違い、穴のサイズを精密にコントロールして設計できる。特定の分子だけを通すフィルターや特定の分子を吸蔵するデバイスなどに使える。CO2の分離・貯蔵とか水素の貯蔵など、脱炭素方面の用途で既存の素材に取って代われる良い性質がありそうというものらしい。


    何となくの印象だが、近年の物理学賞・化学賞からは、科学の社会性みたいなものをノーベル賞委員会が重視するようになったという、かなりはっきりした変化を感じる。私たちの社会を大きく変えた、またはこれから変えると期待される、もしくは社会問題の解決に寄与する何かに関わる発明・発見が授賞対象になっているような。2021年の真鍋さんたち(気候変動)や昨年のAI祭りを見ていてもそう。2022年のベル不等式の破れにしても、これ自体で自然界の深い性質を明らかにした仕事ではあるが、今年の巨視的量子効果と同様、量子もつれが将来の量子コンピューターを成立させる本質的な性質だという観点から選ばれた、という感じがある。

    反面、短期的に何かの役に立つわけではない、いわゆる「純粋」な基礎科学(宇宙とか笑)に対しては委員会の気持ちが少し離れているのかな、という感じ。2020年以降のコロナ禍・戦争・ポピュリズムなどのせいでモードが変わって、「学問も社会と無縁ではいられない」といううっすらとした圧力が増しているのかなー。個人の感想です。

    これを思い出した。

  • 末梢性免疫寛容に関する発見で3氏が受賞。

    免疫システムではいろんな抗原に対応できるように、遺伝子組み換えによって膨大なバリエーションの免疫細胞を生み出すしくみがあるが、そうすると自分自身を攻撃してしまうような望ましくない免疫細胞も生まれてしまう。そういうダメな免疫細胞はちゃんと壊して表に出さないしくみもあって、免疫寛容と呼ばれている。生物ってほんと巧妙ですよね。神様なしで、有機分子のスープを数十億年がちゃがちゃやってるうちにこんなしくみが生まれてくるというのが本当に不思議。

    免疫寛容のしくみが何らかの理由で故障すると、いわゆる自己免疫疾患という病気になる。今回は免疫寛容の中でも末梢性免疫寛容というしくみを解明した3氏が受賞した。

    発表の生配信でシモン・サカグチという名前を聞いて、日系外国人の研究者かと思ったら、「志文」さんというお名前だった。


    明日は物理学賞。昨年は物理学賞と化学賞がAI祭りだった。素核宇宙と物性が隔年という法則ももはやない。宇宙系は2020年のブラックホールが最後なので、そろそろ期待。(と、昨年も書いていた)

    天文・宇宙物理での個人的候補は昨年たくさん書いた通り。

    大規模構造の発見で Kirshner, Geller, Gunn の3名というあたりがいいのでは、と個人的には思っている。Huchra さんは残念ながら亡くなってしまったので。

    素粒子は2015年のニュートリノ振動が最後。もう標準模型の範囲では一通り受賞してしまって、標準模型を超える物理の成果待ちというところか。『理科年表』の「物理学上のおもな発明および発見」のページを見ても、素粒子で未受賞の業績はもうあまりない感じ。


    ここしばらく家の用事がちょこちょこ入り、仕事が進まない。稼がないといけないのに。睡眠時間も不規則になっていろいろ不調。