• SpaceX が xAI を買収。

    イーロンの発表はこちら。

    1t当たり消費電力が100kWのAIデータセンター衛星を年間100万t打ち上げれば、1年で100GW分のAI計算能力を持つデータセンターを軌道上に持つことができる、みたいな話。

    宇宙太陽光発電のアイデアは昔からあるが、巨大な太陽電池を持つ発電衛星をどうやって軌道上で建設するか、発電した電気エネルギーをどうやって地上に送電するかという部分がいろいろ難しい。だったら、電力をバカ食いするデータセンターごと軌道上に打ち上げてしまえばいいじゃないというのがイーロンの発想。

    地球軌道付近に降りそそぐ太陽光のエネルギーは、1m2当たり約1300Wと決まっている(太陽定数という)。よって、仮に衛星1機の消費電力を100kWとすると、太陽電池の発電効率を30%として300m2くらいの太陽電池パネルが必要。相当でかい。

    イーロンの発表文に書いてある通り、今後は Starlink 衛星が V3 (Gen 3) というやつに更新されていく。V3衛星は重量2tで太陽電池パネルが 60×7-8mとのことなので、ここで言っているデータセンター衛星とほぼ同じ規模感。

    ISSと比べると、太陽電池の巨大さが分かる。

    こういうデータセンター衛星を1年で100万機打ち上げ、全天に均等に分布させるとすると、球面の立体角は41252平方度なので、空の0.04平方度ごとに1機ずつ、この衛星が飛ぶことになる。満月の立体角が約0.2平方度なので、満月の面積の中に5機も飛ぶ計算になる。(計算合ってる?)

    現在軌道上にある人工衛星は運用終了しているものも含めて約15000機で、そのうち約9000機が Starlink だと言われている。イーロンのデータセンター衛星構想が実現すれば、衛星の総数が今の100倍に増える。

    現在の Starlink 衛星は太陽電池パネルの反射を抑える工夫がされているというが、それでもよく光り、天文学への影響がすでに懸念されている。

    可視光の影響だけでなく、機体が熱を持っていれば赤外線源にもなり、通信で電波を放射するので電波源にもなる。この構想が実現した暁には、地上からの観測天文学は、不可能ではないにしてもかなり面倒なことになるのではないか。

  • ナゾロジーという自称科学系webメディアで取り上げられ、話題になったらしい。「宇宙が膨張しているのではなく、『ものさし』(を形づくる物質)が収縮している」という論文プレプリントが紹介されたようである。「生え際が後退しているのではない。俺という存在が前進しているだけ」みたいなしょうもない話。リンクはしない。まとまらない感想を書いておく。


    この論文に関しては、「箱を開けなくてもパッケージを見るだけでゴミだと分かる」という外形的な特徴があり、天文や宇宙物理の学部生以上であれば即座にスルーする程度のものである。

    • 論文誌に投稿する前の「プレプリント」であり、査読を受けていない
    • プレプリントサーバーが、普通使われる arXiv.org ではない
    • 宇宙論業界で聞いたことのない人が著者

    中身を読んでいないので何ともだが、宇宙膨張の観測的証拠である「銀河のスペクトルの赤方偏移」を「ものさしが縮んでいる結果」と解釈したいということなんですかね。であれば、光速 c だったり、原子のサイズを決めている微細構造定数 α だったり、微細構造定数の定義の中に現れる電気素量 e やプランク定数 h だったりという物理定数が時間とともに変化しているせいで赤方偏移が観測される、という論理なのかしら。

    「物理定数、実は定数じゃない」説というのは宇宙論の中で昔から登場し、昔から検証され続けている仮説で、新味はない。今のところそのような兆候は一つも見つかっていない。

    ただ、明日になったら物理定数が変化している兆候が見つかる可能性もあるので、チェックし続けることにはまあ意味がある(自然界のありようとして、そういうのはなんか美しくない気はするが)。

    「科学理論とは現時点で世界を最も上手く説明できる仮説に過ぎない」というのは本当。島袋さんがツイートしている通り。(「さらに表示」を押して全て読むことをおすすめします。今回のプレプリントの内容が科学としてどうかという話は島袋さんのこれで尽きている)


    ナゾロジーのようなインプレッション稼ぎの「自称」科学系メディアをどうしてくれようというツイートもいろいろ見た。難しいですね。

    扇情的な見出しで嘘だらけの粗悪なニュースを売るメディアというのは昔からあって、「イエロージャーナリズム」と呼ばれている。

    昔はオカルトの領域でそういう商売がたくさんあったが、20世紀末のオウム真理教事件とノストラダムス大予言の不成就によってオカルトは廃れた。しかし「ふしぎな話が好き」というニーズはいつの世にもあるので、今はそういう需要に対して自然科学「風」の与太話を売りつけるビジネスが出てきたということなのだろう。

    科学メディアの端っこで仕事をしている自分にできることは、「悪貨」に駆逐されない「良貨」を地道に作り続けることしかないかなぁと思っている。何て凡庸な結論。


    悪貨に駆逐されない良貨(=まともな科学メディア)を世に提供し続ける上で非常に大事なこととして、「良貨を作る仕事だけで作り手が食えるようにすること」というのがある。これは 本 当 に 切 実 です。食えないとやっぱり、胡散臭い仕事でもやるしかねぇか、ってなるのは当然なので。

    コンビニで梅のおにぎりが200円を超えて以降、自分はコンビニおにぎりは買っていない。なので、お仕事待っています。できれば高単価の。

  • がいた、という話をライデン大学のプレスリリースで読んだ。

    ハレー彗星は約76年ごとに回帰する周期彗星で、歴史上の記録に登場する大彗星の出現のうち、ハレーだと同定されているものがたくさんある。1066年4月に出現した大彗星もハレーだと考えられていて、有名な「バイユーのタペストリー」にも描かれている。

    12世紀のイングランドに、修道士で歴史家の「マルムズベリーのウィリアム (William of Malmesbury)」という人物がいて、『イングランド王の偉業 Gesta Regnum Anglorum』という歴史書を書いている。

    この本の中でウィリアムは、当時マルムズベリー修道院にいたエセルマー (Eilmer / Æthelmær) という老僧について書いている。エセルマーは占星術に関する著作があったり、手足に翼を付けて飛行する実験をして骨折したりした少し変わった人物だった。

    1066年に大彗星が出現したとき、エセルマーは恐れおののいて、「お前が来たのか? 多くの母たちに涙をもたらす星よ。久しく見ていなかったが、今こうして見ると、さらに恐ろしい。我が母国の滅亡を誇示するかのようだからだ」と言った——とウィリアムが書き記していることを、今回の論文の著者は指摘している。(口ぶりからして)エセルマーは1066年の一つ前、989年のハレー彗星の回帰も見ていたようだ、と。まあ老僧であれば2回見ていてもおかしくはない。

    つまり、ハレー彗星が周期彗星であることを17世紀のエドモンド・ハレーよりも前に指摘した人物がいたというわけで、この彗星を「ハレー彗星」と呼ぶのは再考してもいいのでは、的な内容。

    ただし、実際の論文を読んでみると、論文の著者たちは「命名を再考すべし」などとは書いていない。そこはライデン大学の広報が盛って書いた感じ。

    以下の本に収録される論文らしい。

    A. Willemsen & H. Kik (eds) 2025, Dorestad and Everything After. Ports, townscapes & travellers in Europe, 800-1100. Leiden: Sidestone Press
    (= Papers on Archaeology of the Leiden Museum of Antiquities 35), pp. 123-138.


    ちなみに、この論文の著者であるライデン大学の Simon Portegies Zwart 教授は、大学院時代に私がいた研究室にポスドクとして来ていた時期があり、よく覚えている。CVを見たら、もう還暦を過ぎていた。時が流れすぎ。

    あるとき、何かの手続きでSimonが自分用の印鑑が必要になったことがあり、名前をヒエログリフで刻んだはんこを注文していた。確か趣味で柔術もやっている、多芸多才な人だった。オランダ人ならアーネスト・ホースト知ってる?と聞いたら、知らないと言っていた。研究室の先輩のKさん宅で、Simonを交えてみんなで鍋料理を食べた記憶がある。いろいろ懐かしい。

  • CS後に髪型を変えるかもしれないという話を「かもしれないラジオ」で三人がしていたが、かしゆかさんがまず実行。

    いい写真だなぁ。いい写真。自分で鋏を入れている7、8枚目もいい。

    「自分は成人したのに、なぜ Perfume は俺が幼稚園児だった頃から年を取っていないのか」という感想を動画のコメント欄などでよく見かけるが、こうして見ると、髪型を変えなかったという要因は大きいかも。セミロングになったかしゆかを見ると、37歳の綺麗なお姉さんという感じ。

    Spinning World」で姫カットにしたときと同じく、切った髪はヘアドネーションしたらしい。

    のっちはCSに入ってから全く動向を見せていないが、髪は今よりさらに短くすると言っていた。そちらも楽しみ。

    「装苑」も購入。表紙の「幸福の科学」感が凄い。

    COSTUME MUSEUM の続編という感じで、「ネビュラロマンス 前篇・後篇」とそのライブツアーで着た衣装を徹底紹介している。手縫いで1日かかって片袖しか仕上がらないような、とんでもない手間暇のかかった衣装をライブの1曲でだけ着るとかいう、すさまじい贅沢をやっていることを改めて知った。予算とか、どうなってるんですかね…。

  • にて、Topic「ハッブル宇宙望遠鏡 35年の軌跡」を執筆いたしました。よろしければご覧ください。

    科学雑誌ニュートン最新号(2026年3月号)「物理と平和」 | ニュートンプレス

    1990年のファーストライトから35年ということで、「創造の柱」など、HSTの歴代の有名画像や最新画像をまとめています。監修は田村元秀先生です。

    「創造の柱」はわし星雲(M16)の中心部分だが、HSTが撮影したことで象徴的な領域となり、JWSTなどでも繰り返し撮影されている。HSTが撮った「創造の柱」にもいくつかバージョンがあって、今回も間違えそうになった。階段状にモザイクされているのがオリジナルで、WFPC2で撮影され、1995年公開。四角い画角のものはWFC3で撮影され、2015年公開。

    ハッブルの画像といえば、いわゆるSAO合成と呼ばれる緑っぽい色合いの擬似カラー画像だが、これも「創造の柱」から広まった気がする。[SII] (673nm), Hα (657nm), [OIII] (502nm) の輝線をR,G,Bに割り当てる方法。Hαを緑に割り当てるので、HII領域はたいてい緑っぽくなる。「ハッブルパレット」とも呼ばれ、今ではアマチュア天体写真家もよく使う定番のナローバンドフィルターセットになっている。

    今号は特集「物理と平和」も重要。編集長の板倉さんがドイツ取材を敢行。

    科学に携わる人が軍事とどう距離を取るべきかというのは難しい。「軍事研究には一切関わりません」と言うのは簡単だが、「そもそも、『軍事研究』の定義とは、何か…?(ねっとりと石破風に)」という線引きの問題がある。

    記事でも触れられている通り、軍事に転用できる、あるいは逆に軍事から非軍事分野に転用されたものが科学技術の世界にはたくさんある。天文宇宙分野だけでも、赤外線天文学、電波天文学、ロケット技術、大気圏再突入の技術、数値流体力学などなど、枚挙に暇がない。軍事「から」転用されたもの、軍事「に」転用されうるものの研究までNGとするの? という問いを考え始めると、正解や最適解を導き出せる自信がなくなってくる。

    もう一つ、自衛をどう考えるかという問題が必ず付いて回る。侵略戦争に加担しないというのは分かりやすいが、ほぼすべての戦争は侵略や主権侵害をする側が「これは自衛です」という論法で、恐怖心・猜疑心から始めるものである。ロシアもイスラエルも、先日のベネズエラの斬首作戦もしかり。中国が香港・台湾・南沙諸島を取りに行くのも、北朝鮮が核開発をやめないのも、それが彼らにとっての自衛で、彼らが恐怖を感じているからにほかならない。マンハッタン計画も、ドイツより先に原爆を完成しないとこちらがやられてしまうという、強烈な恐怖心と自衛のプレッシャーの下で行われた。

    正当防衛あるいは抑止力なのか、それとも過剰な恐怖心・猜疑心に基づく暴力なのかというのは、その時、その渦中にいる人間には分からないことが多い。そういう分からない状態の中で、「あなたには能力があるのに、国や家族を守ることにその能力を使わないんですか?」と問われたとき、どう答えるべきかというのは、これも正解や最適解は自分にはよく分からない。

    日本天文学会は2019年に「天文学と安全保障との関わりに関する声明」というのを出しているが、会員から批判も出ていた。

    戸谷友則さんは「天文月報」で、こういうのはどこまでいっても個人の自由が最優先されるべきで、学術会議がトップダウンでどちらかを強制するようなものではなかろう、と書かれている

    科学に携わる者が軍事に手を染めないと宣言することよりも、国家間で恐怖心や猜疑心がエスカレーションしないためのしくみ、可能な限り世界を透明にするしくみ、力による現状変更が損になるしくみ、等々を作ることに科学者の叡智を使う方が、破滅を防ぐためには有効なのではという気もする。