• 特集「宇宙とは何か」を担当いたしました。よろしければご覧ください。

    https://honto.jp/netstore/pd-magazine_32559650.html

    前半は宇宙観をめぐる科学史の話、後半は宇宙論の話。今回は編集部と相談して、あえて観測的宇宙論の話は少なめにして、理論メインの構成になった。

    自分の高校〜大学入学頃(〜1990年あたり)までは、宇宙論というと理論の話しかほぼ目にしなかったが、その後にCMBやIa型超新星の観測で「観測的宇宙論」が大成功し、宇宙論パラメータが決まったおかげで、最近ではともすれば「宇宙論=観測的宇宙論」みたいなムードにもなっている。ホーキングやビレンキンが「無からの宇宙創成」とか言っていた量子宇宙論ってそういえばどうなったの? というあたり、国内のポピュラーサイエンスの業界ではあんまり情報が更新されていなかったので、そのへんに誌面を割きました、という感じ。

    自分が院生だった1990年代終わりごろは、どうも宇宙の密度パラメータは Ωmatter = 0.3、ΩΛ = 0.7 くらいで、足して1という、「宇宙項入りの平坦な宇宙」だ、どうしよう、ということがいろんな観測から示唆されていて、そこに1998年の加速膨張発見があって、いよいよダークエネルギーがあることになってしまって、でも量子論からは真空のエネルギーは ΩΛ より120桁くらい大きなエネルギー密度しか出てこないので、何だこの不一致は、とみんな途方に暮れていた、という雰囲気を何となく覚えている。こういう微調整問題は今ではマルチバースで説明するのが一番自然だろう、ということになっているらしいです。

    監修していただいたUCBの野村泰紀先生によると、今でこそようやくそういう話ができるようになったが、2000年代前半には研究会でそういう話をしても、「哲学の話をどうもありがとう」と座長から半笑いで言われる、みたいなムードだったという。このエピソードは、先日読んだ、近年の映画に登場するマルチバースについて紹介した記事でも野村先生が話している。

    https://realsound.jp/movie/2023/07/post-1365003.html

    ワインバーグは「マルチバースで微調整問題は解決できるじゃん」と1980年代に既に言っていたとのこと。さすが。

  • 忙しかったここ数日、楽しみな告知をいろいろ見かけた。

    Perfume新曲「Moon」がドラマ「ばらかもん」主題歌に。てっきりこないだのロンドン公演で披露した「ラヴ・クラウド」が新曲かと思ったらもう1曲あった。

    https://www.youtube.com/watch?v=8cFShUPf2g4

    あれっと思ったのは「(Polydor Records)」という表記。ユニバーサルミュージックジャパンじゃないの、と思ったら、グループ内の組織改編で「ポリドール」というレーベル名が復活するらしい。

    テイラー・スウィフト世界ツアー、東京ドーム 4 days。来年2月。行きたい。早くもローチケ先行受付中。

    https://taylorswift-theerastour.jp/

    BONNIE PINK姐さん、11年ぶりアルバムリリース。9/6『Infinity』。出す出すと言ってずっと出なかったやつが、ついに。

    https://www.bonniepink.jp/news/?id=535

  • クレーターからの出血が完全に止まっていなくて喉がずっと血の味がしているとか、クレーターにご飯粒が入るとか、鈍痛が続いているとか、ついでに冷房をつけたまま寝たせいで鼻風邪を発症したっぽいとか、いろいろあってlowである。でも原稿を書かないと…。

    お肌の調子は良い。ステロイドが劇的に効いたのか、飲み薬の方が効いているのか分からんが、痒みがなくなってなんか綺麗になってきた。現代医学は凄い。

    なんか楽しいことを考えて乗り切ろう。

    スペインでの戦いを終えた4人の戦友の宴の様子を拝見するなど。

  • 親知らずを抜いた。今回はメキメキという音もなく、わりとあっさりと工事完了。抜歯自体よりも、抜いた後にガーゼを嚙んで止血しておくのがきつかった。親知らずは必然的に口の一番奥なので、ここに異物を入れているとおえっと嘔吐反射が出る。あとは鈍痛。ひたすら寝ておく。

  • 校正仕事をしていて気づいたのだが、俺が「空気望遠鏡」だと思っていたものは空気望遠鏡ではないのかもしれない。

    17世紀の「空気望遠鏡」の例として、ヘヴェリウスのこの望遠鏡がよく登場する。俺も、空気望遠鏡と言えばこれだと思っていた。

    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Houghton_Typ_620.73.451_-_Johannes_Hevelius,_Machinae_coelestis,_1673.jpg

    しかしWikipedia英語版を見ると、このヘヴェリウスの望遠鏡は空気望遠鏡 (aerial telescope) とはされていない。この望遠鏡は長い板に等間隔で絞り板を取り付けて迷光を遮光する方式になっているので、対物レンズと接眼部の間は閉じた鏡筒ではないものの、ソリッドな構造物(長い板)で結合されており、”very long “tubed” telescopes” の例だとされている。

    上記のWikipedia記事や The History of the Telescope (King, 2011) という文献で tubeless な空気望遠鏡の発明者とされているのは、クリスティアーン・ホイヘンス。彼は対物レンズ部を高いマストの上に設置し、ボールジョイントで方向を自由に変えられるようにして、接眼部との間をワイヤーでつないだ。対物部と接眼部はソリッドな鏡筒や板・棒で結合されておらず、ぶらぶらしている。観測者はワイヤーをピンと張って望遠鏡を覗く。これが最初の空気望遠鏡らしい。

    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Huygens_Aerial_telescope,_1684.jpg

    言われてみれば、閉じた鏡筒で光路が覆われていない=空気望遠鏡という定義だと、すばる望遠鏡をはじめとする現代の大望遠鏡も、オープンなトラス鏡筒なんだから全部空気望遠鏡じゃんということになってしまう。それはなんかおかしい。

    科学史や理科教育の世界では、日本語で流布している話と海外で流布している話が違うというケースがちょくちょくある。俗説を鵜呑みにしないように注意しなければならない。