• 年末恒例特集「星のゆく年くる年」にて、「ゆく年天文学・宇宙開発2024」を執筆いたしました。よろしければご覧ください。

    星ナビ 2025年1月号 – アストロアーツ

    天文業界で今年一番の話題は何と言っても紫金山・アトラス彗星だと思うが、天文「学」・宇宙開発というジャンルでいうと、個人的に一番エモかったのはSLIMの月着陸の画像と、Super Heavy の発射塔でのキャッチ成功だった。

    Super Heavy は全長70mなので、ボーイング747と同じくらい。ジャンボ機が垂直に降りてきたのを発射塔で挟んで捕まえる、というイメージ。一発で成功させるとは思わなかった。

    イーロン・マスクの最近の言動はどうしようもなくひどいが、SpaceX が最先端を行っていることは認めざるを得ない。2030年代には人類はこうやって月と火星まで行くんだよというビジョンを現物で強烈に見せつけてくるところが凄い。

    2024年に打ち上げられたロケットの内訳は下図の通り(サブオービタルは除く)。SpaceX の Falcon シリーズが圧倒的で、中国の長征シリーズが2位。しかも Falcon の薄い緑色の部分はすべて、初飛行ではなくリユースの機体。ただし、125回くらいあるうちの85回くらいは自社の Starlink 衛星の打ち上げなので、これが全部打ち上げビジネスの受注というわけではない。にしても多いが。

    2024 in spaceflight – Wikipedia

    あれ、欧州は?と思ったが、2024年はアリアン6の初飛行とVega, Vega-Cが1回ずつで3回しかなかったらしい。なので Others に入っているのかな。

  • 咳が一向に治まらず、今日は相当辛かったので、急遽半休にしてもらって医者へ。かかりつけの内科ではなく、そこで前回紹介してもらった呼吸器科のクリニックに行った。

    前回のとき(3月)に再診がなかったけど経過はどうだったんやと詰められ、よく覚えていないけど30日分の吸入薬が終わる頃には治まったので多分来なかったのだと思う、と答えたら、「喘息の治療は続けることが大事」「症状がなくて体調が絶好調のときでも定期的に来てください」と言われた。そうなのか。

    咳が出る病気は他にもたくさんあるので、喘息かどうかを鑑別する検査というのをやった。呼気に含まれる一酸化窒素 (NO) の量を測る。喘息の人は気道に炎症があるのでそこで NO が産生されるらしい。おおよそ 30ppb を超えると喘息とみてよいらしい。自分は40ppbだった。やはり喘息ですねという診断。

    前と少し違う吸入薬と、緊急時用の吸入薬(メプチンエアー)と、炎症を抑えるステロイドの錠剤を出された。1回6錠飲む必要があり、くっそ苦い。舌の上ですぐに溶けるからか。

    明らかに寝不足が増悪の一因になっているが、さっき数えたら年内だけで7本の仕事が並行で走っていることに気づいた。入れすぎ。

    全然関係ないが、aespa の Supernova は超新星爆発が恒星の死であることや、恒星内部で合成された元素が私たちの身体の細胞を作っていること、つまり「我々はどこから来たのか」という人類の深い問いに関わる天文現象であることを、歌詞にちゃんと織り込んでいる。天文学的観点から見ても興味深い曲。

  • ちょうど診察の日だったので、初めて使ってみた。マイナンバーカードに保険証機能を設定するのは以前にやってあったので、特に迷うところはなかった。

    読み取り機にカードを置いて、本人認証は「暗証番号」を選択。顔認証でもいいが、マスクを外さないといけないのでめんどくさい。多分だが、受付の人の画面にはカードのICに入っている情報が顔写真データも含めて表示されるので、仮にカードと暗証番号をセットで第三者が使ったとしても顔の違いでバレるということだよね。

    過去の受診情報を開示するかどうかに同意する画面が出るが、これはもう少しUIの用語をやさしくしないとダメだろう。

    「医師や薬剤師が、あなたの手術歴・他の医院にかかった記録・もらった薬・健診の結果などを見てもかまいませんか? 「すべてOK」/「OKするものを選ぶ」」くらいにやさしくしないと。70、80のお年寄りに「受診情報の開示」なんていう硬い言葉を表示しても伝わらないだろう。

    薬局でもマイナ保険証を使ったが、お薬手帳はこれまで通り紙のやつを持っていれば出してくれと言われた。そうなのか。

  • 校正仕事をしていて気づいたが、Wierzchoś さんという発見者の名前が付いた彗星がいくつかあり、これのカタカナ表記として「フィエチジョシュ」と書かれているケースが散見される。(例:C/2024 E1)

    Kacper Wierzchoś さんはアリゾナ大学の研究者で、カタリナスカイサーベイに携わっており、そのためにいくつかの彗星の発見者となっているようだ。

    Wierzchoś さんはポーランド出身で、この姓もおそらくポーランドのものだが、「フィエチジョシュ」とはさすがに読まないのでは、と思ってご本人にメールで尋ねてみた。すると、何と姓の読み方を音声ファイルで送ってくださった。ありがとうございます。

    この発音を踏まえると、「ヴィルシュホッシュ」または「ヴィエシュホッシュ」という感じの表記が良いのではなかろうか。

    Wierzchoś さんの名前で検索していて見つけたのだが、彼は YouTube にチャンネルを持っていて、ジャズギターの演奏動画を上げている。見事な演奏で、多才な人というのはいるものだなあと思った。動画の背景に本棚が映っていて、天文関係の本も並んでいる。

    近年の彗星は突発天体や地球接近天体を探索するサーベイプロジェクトで見つかることが多く、その場合にはプロジェクト名が彗星名になることが多い(ATLAS彗星、Pan-STARRS彗星など)。一方、サーベイプロジェクトで発見されたにもかかわらず個人名が付く場合もあり、C/2024 E1 (Wierzchoś) もまさにその一例だが、なぜそうなるのかずっと不思議だった。調べてみると、IAU 小惑星センターの「彗星命名ガイドライン」にある “3.4 (a)(2)” という条項によるもののようだ。

    Guideline 2: Regarding discoverers.
    2.1 Comets are to be named for their individual discoverer(s) if at all possible. This means using the last (family) name of the discoverer(s).
    2.2 Sometimes, however, team names are more appropriate.

    (d) … For observing programs consisting of more than two people, the established team/program name will generally be used for the comet name unless Guideline 3.4(a)(2), below, is satisfied.

    Guideline 3: Regarding teams of discoverers.

    3.4 … (a) Individual names of team members.

    (2) If a team (with more than two members) supplies satisfactory written testimony that a single team observer did the work to find the comet and note its cometary activity, measure its position and magnitude (or monitor an automatic computer program that does so), and report this information, then it is acceptable for a comet so discovered by a team program to have that single individual’s name on the comet instead of the program name.

    3人以上からなる観測プログラムで見つかった彗星の名前は観測プログラム名にするのが基本だが、発見や彗星活動の確認、位置測定、測光(またはそれらを自動でおこなうコンピュータープログラムの監視)、報告を単独のメンバーがおこなったという文書での証明をチームが提出した場合には、その個人の名前を彗星名にすることも許容される、となっている。

  • 写真記事「JWST最新宇宙ギャラリー」を執筆いたしました。よろしければご覧ください。

    科学雑誌ニュートン最新号(2025年1月号) 「SFは実現可能か」 | ニュートンプレス

    年1回くらいのペースでHSTやJWSTの最新画像を記事にしており、今回はJWSTの2024年ベストヒッツという感じのラインナップ。

    JWSTは赤外だけあって星形成領域の画像などが凄いが、それ以外に重力レンズ画像もかなり面白いと改めて思った。銀河団の重力で引き伸ばされた遠方銀河のアーク像の中に同じ超新星の像が何個も見えて、しかも像ごとに光路差があるので見え始める時期が数年違うとか、凄いことになっている。

    一番凄いなと思ったのは、記事でも紹介した「クエスチョンマーク銀河」と呼ばれるレンズ像。

    NASA’s Webb Reveals Distorted Galaxy Forming Cosmic Question Mark  | Webb

    A〜Eは遠くにある同一の相互作用銀河が手前の銀河団の重力レンズ効果で蜃気楼のように5個の像に分裂したもの。face-onとedge-onの円盤銀河が衝突してかたつむりのような形状になっている銀河ペアだが、特にAとE。形がまったく同じ。

    同じ天体の像が分裂してるんだから同じで当たり前なんだけど、遠い銀河の像ってもともとぼんやりした斑点にしか見えないものが多いので、「これとこれは実は同じ天体が2個の像になってるんですよ」と言われても、いまいちぴんと来ないものが多かった。こういうふうに具体的な特徴を持った銀河像が確かに複数個に分裂してますね、と分かるようなものが公開されたのはほぼ史上初ではないか。

    よく見るとBも歪みが少なくてA,Eとほぼ同じ形を保っていて、しかもこれはA,Eとは鏡像(裏返し)になっている(重力レンズ像は裏返しになることもよくある)。重力レンズを再現したCGの世界ではこういうのはよく見るが、現実の天体画像でこれほどはっきりと見ることができるのは、さすが開発費1兆円の望遠鏡だけある。