「星ナビ」2023年7月号

にて、ユニステラの電視観望望遠鏡「eVscope」のユーザーが昨年9月のNASAの実験機「DART」による小惑星衝突実験を共同観測した成果について書きました。よろしければご覧ください。

https://honto.jp/netstore/pd-magazine_32515700.html

「電視観望」(electronically assisted astronomy; EAA) とは最近流行っている天体観望のやり方で、望遠鏡を肉眼で覗くのではなく、接眼部にCMOSカメラなどを取り付けて天体像をリアルタイムで撮影・蓄積し、簡易的な画像強調などもリアルタイムでかけてPCやタブレット、スマートフォンなどの画面で画像を楽しむというもの。市街地では見えないような暗い星雲星団をそれっぽいカラーで、ライブ感をまあまあ損なわずに楽しめる。イメージセンサーやPC、モバイル端末の性能が劇的に向上したおかげでこういう手法が可能になった。

で、電視観望専用のデジタル望遠鏡というのも最近は登場していて、ユニステラが出している「eVscope」シリーズもその一つ。口径11cmのニュートン反射だが、光路を斜鏡で外に出して覗く形ではなく、主焦点にイメージセンサーがあって天体を撮影する。撮った画像はWi-FiでPCやモバイル端末のアプリに送られ、それを鑑賞する。あるいは鏡筒に擬似的に取り付けられた接眼部で、中に組み込まれているEVFに映し出された画像を「覗いて」楽しむ。

eVscopeは高い。ニコンと提携していてニコンダイレクトなどでも買えるが、30万〜50万円台である。

https://shop.nikon-image.com/front/ProductBFA90000

普通の口径10cm級の反射望遠鏡は、中国メーカーであれば架台込みで5-6万円でも買えるので、そういうのに比べるとすごく高い。

https://www.syumitto.jp/SHOP/SW1410010002.html

その価格差を補って余りあるユーザー体験としてユニステラが提供しているのが、eVscopeを使うと「市民科学」に簡単に参加できますよ、という付加価値。天体導入と撮影が自動化されているので、小惑星による恒星食とか系外惑星の観測とか、これまではアマチュアでも上級者しかできなかったような「科学としての観測天文学」が、アプリをポチポチするだけで楽しめる。観測結果も簡単にメーカーサイトにアップロードでき、メーカーと提携しているプロの天文学者が、集まった画像を解析して成果をまとめてくれる。重要な成果が出れば論文にもなる。今回のDARTの観測も、衝突された小惑星の光度変化などが世界中のeVscopeユーザーによって観測され、論文が「Nature」に載った。観測した各ユーザーがちゃんと論文の著者になっている。

http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/12994_unistellar

…というような話を、ユニステラのCEOや観測に参加したユーザーの方々に取材した記事になっております。

天体が放射した光子を直接自分の網膜で受けるという部分に価値を見いだす人は「電視観望なんて」と言うかもしれないが、画面で見られるので一人ずつ覗かなくてもいいとか、自動でスタックされるので暗い星雲も写真に近いイメージで見えるとか、メリットもたくさんある。加えて、アマチュアにも本物の科学に貢献できるというのは楽しい。