最近のIUT関連

ずっと多忙で何も書いていなかったが、いくつかトピックをまとめ。5ch 数学板とかに書いてある話なので、そっちを見ている人には新しい情報はない。

 

zbMATH

7月に zbMATH に望月氏の IUT 論文のレビューが投稿された。レビュアーは論文の欠陥を指摘した Scholze 氏。

zbMATH Open – the first resource for mathematics

zbMATH は世界規模の数学論文データベースの一つで、第三者による論文のレビューが付けられて集積されるところが独特。エディターは欧州数学会とFIZカールスルーエとハイデルベルク科学アカデミーという組織だそうである。そこがレビュアーを選ぶ。で、望月論文のレビュアーには京大やノッティンガム大の人たちではなく、Scholze さんが選ばれた。で、当然のことながら「これは ABC 予想の証明になっていない」と評されている。

Unfortunately, the argument given for Corollary 3.12 is not a proof, and the theory built in these papers is clearly insufficient to prove the ABC conjecture.

zbMATH にこういうレビューが載り、いまだに IUT 支持派によって覆されてもいないというわけで、京大・ノッティンガム大以外の数学コミュニティでは IUT は既に終わっているといってよいのだろう。

 

8/21 朝日新聞の社説

朝日の社説でIUTが取り上げられた。

(社説)数学の難問 その先に新しい世界が:朝日新聞デジタル

「証明した」と書いたが、実は論文を公表してから9年経っても、世界の多くの数学者に認められるに至っていない。あまりに難解なためで、広く受け入れられるまでにはさらに年月がかかりそうだという。

アインシュタインの相対性理論もそうだった。しかし今では誰もがその名を知っているし、スマホや、カーナビでおなじみのGPS衛星でも重要な役割を果たしている。望月さんの理論も、遠い未来の日常に欠かせぬものになるかも知れない。

相変わらずおめでたい論調。難解だから受け入れられないのではなく、「系3.12」にギャップがあると複数の数学者から具体的に指摘されている。望月氏はこれらの批判に対して「IUT を初歩的レベルで誤解している」と反論しているが、査読付き論文の形で反論を出版していない。

科学に関して、味噌も糞も一緒くたに取り上げてただ「夢を語る」ことが科学のためになるとは俺にはとても思えない。手放しで「夢」に飛びつくことの危うさを、メディアは STAP 細胞のときにさんざん思い知ったはずじゃなかったのか。

 

IUT Summit 2021

9月に RIMS で Zoom 開催されたワークショップ。


Inter-universal Teichmüller Theory (IUT) Summit 2021
(RIMS workshop, September 7 – September 10 2021)

9名の招待講演者のうち一人だけ、京大でもノッティンガム大でもない人(Christian Táfulaさん、モントリオール大)がいるが、この人の講演内容は ABC 予想がらみではあったものの、IUT とは直接関係なかったようである。

Title: From ABC to L: On singular moduli and Siegel zeroes

Abstract: In 2000, using analytical, algebraic, and arithmetical ideas, Granville and Stark showed that the “uniform” ABC for number fields implies that odd Dirichlet L-functions have no “Siegel zeroes”, which are a severe type of (not yet unconditionally ruled out)
counterexample to the Generalized Riemann Hypothesis. In this talk we are going to focus on the structure of their main argument, and discuss recent work that allows us to get more precise relations between the analysis (zero-free regions of L-functions) and the arithmetics (heights of singular moduli).

ということで、結局 IUT 支持派の外から IUT の話をする講演者を呼ぶことはできなかった模様。


Comments

“最近のIUT関連” への1件のコメント

  1. […] reposting part of my Nov. 9 post in […]