「Newton」2026年3月号

にて、Topic「ハッブル宇宙望遠鏡 35年の軌跡」を執筆いたしました。よろしければご覧ください。

科学雑誌ニュートン最新号(2026年3月号)「物理と平和」 | ニュートンプレス

1990年のファーストライトから35年ということで、「創造の柱」など、HSTの歴代の有名画像や最新画像をまとめています。監修は田村元秀先生です。

「創造の柱」はわし星雲(M16)の中心部分だが、HSTが撮影したことで象徴的な領域となり、JWSTなどでも繰り返し撮影されている。HSTが撮った「創造の柱」にもいくつかバージョンがあって、今回も間違えそうになった。階段状にモザイクされているのがオリジナルで、WFPC2で撮影され、1995年公開。四角い画角のものはWFC3で撮影され、2015年公開。

ハッブルの画像といえば、いわゆるSAO合成と呼ばれる緑っぽい色合いの擬似カラー画像だが、これも「創造の柱」から広まった気がする。[SII] (673nm), Hα (657nm), [OIII] (502nm) の輝線をR,G,Bに割り当てる方法。Hαを緑に割り当てるので、HII領域はたいてい緑っぽくなる。「ハッブルパレット」とも呼ばれ、今ではアマチュア天体写真家もよく使う定番のナローバンドフィルターセットになっている。

今号は特集「物理と平和」も重要。編集長の板倉さんがドイツ取材を敢行。

科学に携わる人が軍事とどう距離を取るべきかというのは難しい。「軍事研究には一切関わりません」と言うのは簡単だが、「そもそも、『軍事研究』の定義とは、何か…?(ねっとりと石破風に)」という線引きの問題がある。

記事でも触れられている通り、軍事に転用できる、あるいは逆に軍事から非軍事分野に転用されたものが科学技術の世界にはたくさんある。天文宇宙分野だけでも、赤外線天文学、電波天文学、ロケット技術、大気圏再突入の技術、数値流体力学などなど、枚挙に暇がない。軍事「から」転用されたもの、軍事「に」転用されうるものの研究までNGとするの? という問いを考え始めると、正解や最適解を導き出せる自信がなくなってくる。

もう一つ、自衛をどう考えるかという問題が必ず付いて回る。侵略戦争に加担しないというのは分かりやすいが、ほぼすべての戦争は侵略や主権侵害をする側が「これは自衛です」という論法で、恐怖心・猜疑心から始めるものである。ロシアもイスラエルも、先日のベネズエラの斬首作戦もしかり。中国が香港・台湾・南沙諸島を取りに行くのも、北朝鮮が核開発をやめないのも、それが彼らにとっての自衛で、彼らが恐怖を感じているからにほかならない。マンハッタン計画も、ドイツより先に原爆を完成しないとこちらがやられてしまうという、強烈な恐怖心と自衛のプレッシャーの下で行われた。

正当防衛あるいは抑止力なのか、それとも過剰な恐怖心・猜疑心に基づく暴力なのかというのは、その時、その渦中にいる人間には分からないことが多い。そういう分からない状態の中で、「あなたには能力があるのに、国や家族を守ることにその能力を使わないんですか?」と問われたとき、どう答えるべきかというのは、これも正解や最適解は自分にはよく分からない。

日本天文学会は2019年に「天文学と安全保障との関わりに関する声明」というのを出しているが、会員から批判も出ていた。

戸谷友則さんは「天文月報」で、こういうのはどこまでいっても個人の自由が最優先されるべきで、学術会議がトップダウンでどちらかを強制するようなものではなかろう、と書かれている

科学に携わる者が軍事に手を染めないと宣言することよりも、国家間で恐怖心や猜疑心がエスカレーションしないためのしくみ、可能な限り世界を透明にするしくみ、力による現状変更が損になるしくみ、等々を作ることに科学者の叡智を使う方が、破滅を防ぐためには有効なのではという気もする。