「Newton」2024年8月号

特集「宇宙からの挑戦状」を執筆いたしました。よろしければご覧ください。

科学雑誌ニュートン最新号(2024年8月号) 「宇宙からの挑戦状」 | ニュートンプレス

現代の天文学における未解決問題を解説しています。「ダークマターの正体は何か」「ダークエネルギーの正体は何か」のような大きな問題は何度も取り上げているので今回は置いといて、もう少し知名度低めの、しかし重要なトピックを14個、紹介しています。監修は「天プラ」でもおなじみ、電波天文学者の平松正顕さん(国立天文台)。

今までに何が分かっていて何が未踏か、という「現在位置の確認」は大事。

自分が学生だった1990年代前半の天文学を思い出してみると、例えば「太陽ニュートリノ問題」(太陽から届くニュートリノの個数がなぜか理論値の約半分しかない)や、宇宙年齢の問題(球状星団にある最古の星が約130億歳と推定されるのに、ハッブル定数から計算した宇宙年齢は約110億年にしかならない)があった。

前者はニュートリノ振動という現象が確認され、後者は宇宙の加速膨張の証拠が見つかって解決した。解決はしたが、ニュートリノ振動が起こるということはニュートリノが標準模型の仮定とは違って質量を持つということであり、宇宙膨張が加速しているということは正体不明のダークエネルギーという成分が宇宙にあるということになり、どちらも別の未解決問題に形を変えて生き残っているとも言える。

そんなふうに、「未解決問題の多くはいずれ解かれるが、形を変えて次世代にリレーされる」という実例をいくつも目の当たりにできたのは、この歳まで生きて良かったことの一つだなと思う。高校・大学時代の自分には、例えばスポーツの世界記録が更新されるというのは身体能力が向上したり用具が進歩したりしてだんだん実現していくんだろうという想像がついたが、当時存在していた科学分野の未解決問題がいずれ解決される(=学問は進歩してゆく)というのはどういうことなのか、具体的なイメージがよく分かっていなかった。