量子もつれ、ベルの不等式

ノーベル物理学賞発表当日に一部再収録されて公開された田崎さんの動画では、いきなりエンタングルメントという言葉が説明なしに出てくるところが素人にはちょっと付いて行きづらいかも、と思っていたが、そのへんをもう少し一般向けに噛み砕いた動画が新たに2本公開されている。

噛み砕いたと言いつつ、量子状態の重ね合わせについて「直観的な説明はない」「我々が日常で目にする何物にも似ていないので例えで説明はできない」とはっきり突き放すところに、知的誠実さを感じる。

「どんなに難しい概念でも頑張れば説明は可能だ、プロならそれをやれ」と主張する、信じられない人が科学コミュニケーション界隈にもたまにいるのだが、量子力学をやるにはどうしたって解析力学や線形代数、複素関数論などが必要で、それをやるにはより基礎的な物理や数学が必要で、これは小学校1年から一段ずつ階段を上って身に付けるしかない。

階段を序盤で降りた人たちを相手に、有限のリソース(時間・金・頁数 etc.)でどんなに難しい概念でも理解させられますなどと称するのはやっぱり詐欺だろう。

今の自分はその詐欺の片棒を担いで生活しているんじゃないか、という矛盾はずっとあるんだが、入口は紛い物でもまあいいから、興味を持ってくれたらだんだんとましな本物で勉強していって欲しい、と思いながらやっている。楽器とかと同じで、最初に気軽に手に取れる玩具みたいな安物が世の中にあってもまあいいだろうと。それで楽しさに目覚めて玩具では飽き足らなくなったら、本物へと進んで欲しい。自分自身はその一番入口にいる、しがない玩具のピアノ売りであります。玩具なりにいい音が鳴るようにといろいろ試行錯誤して作ってはいるが、所詮は玩具であって本物ではないという意識を忘れないことが重要で、思い上がってはいけないと思っている。