長征5号Bの第1段が落ちてくる話

2021年5月の打ち上げ時と同じ話で、何が問題視されているのかはそのときにも書いた。

「中国のロケットが

要は、1段式+ブースターという構成なので、ペイロードとともに巨大な第1段がそのまま地球周回軌道に乗ってしまうのが問題。普通の多段式ロケットの第1段は数分間の燃焼を終えるとさっさと落ちてしまうので、落下範囲の予測が簡単で対策が容易だが、いったん周回軌道に乗って人工衛星になってしまった物体がいつ落ちてくるのかは正確には分からない(大気抵抗の大きさ次第)。

仮に衛星軌道から落ちてくるにしても、数t であれば大気圏再突入で燃え尽きるので問題はない。しかし長征5号Bの第1段は 20t 以上ある。実際、2020年5月に初めて長征5号Bが打ち上げられた際には、燃え尽きずにコートジボアールに残骸が落下した。

Chinese Rocket Debris May Have Fallen On Villages In The Ivory Coast After An Uncontrolled Re-Entry

長征5号Bがこんな迷惑な構成になっている理由は、「宇宙ステーションのモジュールという大きな物体を上げるため」ということになっているが、20t 級のペイロードを LEO に上げるのにどうしても1段構成でなければダメという理由はない。

例えば、過去の宇宙ステーション建設では、ロシアの「ミール」の構成モジュールやISSの最初のモジュール(ザーリャとズベズダ)は10-20t の大きなペイロードだったが、3段式のロシアのプロトン-Kロケットで打ち上げられた。この場合、周回軌道に残るのは第3段(約4t)のみなので問題にはならない。

この長征5号Bについて、長征5号から何が改良されたかを中国運載火箭技術研究院の李東氏(長征5号シリーズの主任設計者)が語っている動画があった。

長征5号はペイロードを月や深宇宙まで運ぶので2段式(彼はブースターを0.5段と表現して2.5段式と呼んでいる)だったが、宇宙ステーション建設では LEO にさえ運べればいいので、1段+ブースターにして全長を短縮し、その分ペイロードのフェアリング容積を稼いだ方がお得だし、構造が単純になってよい、という考え方のようだ。「多段式は仕方なくそうしているだけであって、すべてのロケット技術者にとって究極のゴールは1段式で軌道に投入できるロケットだ」と述べている。

ただし彼は、これだと巨大な第1段が衛星軌道に乗ってしまい、無制御落下になってしまうという点には触れていない。このレベルのロケット技術者がその危険性に気づいていないわけはないと思うが。長征5号をベースにして楽に改良できるからそうしただけというのが本音ではないかという気もする。

この構成で上げたいのなら、軌道上で第1段を減速・制御落下させる機構を付けなければ、中国はいつまで経っても宇宙開発の世界で他国から信頼される地位には就けないだろう。さほど難しい技術でもないと思うのだが。