H3打ち上げ中止

14時から行われたリモート会見に参加。中止から3時間も経たない時点で開かれたので、現場の状況把握が最優先だったと思われ、プロジェクトマネージャの岡田さんのみが出席して最低限の状況説明のみという感じだった。

JAXA | H3ロケット試験機1号機による先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)の本日の打上げ中止について

打ち上げシーケンスの最終ステップは、

  • X-6.4秒:第1段エンジン (LE-9) スタート
  • X-0.4秒:固体ロケットブースター (SRB-3) 点火
  • X-0:離昇

なのだが、LE-9の起動までは正常で、ほぼ100%に近い推力を発生したことを検知している。しかしその後に第1段の制御機器が何らかの異常を検出したため、SRB-3の点火コマンドは出ずにLE-9は停止され、アボートとなった。

ロケットの打ち上げでも「はやぶさ2」のリュウグウ着陸でもそうだが、一連の動作シーケンスでは各ステップで機体各部の電圧や温度、タンクの圧力など、さまざまなセンサーの出力値を監視していて、何かのセンサーの値が正常範囲を外れたら安全に中止(アボート)するシーケンスへ移る。今回はLE-9始動の後にアボートしたということ。特に、SRBはいったん点火したら燃焼し終わるまで止められないので、オールグリーンにならない限りSRBに点火しないというのはまあ当然。

ただし、アボートの原因が異常値を検知したせいなのか、第1段制御機器自体の不具合なのかまではまだ切り分けられていないとのことだった。

とりあえず、夜までに燃料を抜いてロケットをVABに戻し、調査が行われるとのこと。

情報としてはこのくらいで、各社の質疑に岡田PMが答えていたが、共同通信のある記者の質問がここしばらくのJAXAの会見では見たことがないほどひどかった。

記者は、この事象は「中止」ではなく「失敗」と呼ぶべきなのでは、と言質をしきりに取りたがり、岡田さんは「ロケットというものはいつも安全に止まる状態で設計していて、今回はその設計の範囲の中で止まっている。設計の想定範囲を超えて止まる『意図しない中止』であれば大変なことになるが、今回は想定している中の話なので、『失敗』とは言いがたい」と、まあ普通に回答したのだが、記者は納得しなかったようで、質問の最後に「分かりました。それは一般に『失敗』と言いまーす。ありがとうございまーす(笑)」と捨て台詞を残して終わった。見返したくもないが、以下の動画の 30:55〜34:00 にやり取りが残っている。思わず、テレビ会議ソフトに向かって「何言ってるんだよ!」と声を上げてしまった。

宇宙関係の会見では、共同通信からはいつも須江さんという記者の方が出ていて、今回須江さんもいたのだが、須江さんは基礎知識がちゃんとあってきわめて普通の人。上の礼儀知らずな記者はJAXAでは見たことがないが、あれで共同通信の科学部次長らしい。こういう頭のおかしい人が同じ職場にいる須江さんにちょっと同情した。

この質問が出た後、会見映像を配信していたYouTubeライブのコメント欄は大荒れに。twitterのTLでも「あれはひどい」という反応が多かった。

ロケットにおける「成功」とは、第1宇宙速度を超えてペイロードを地球周回軌道に投入することである。そういう意味では、軌道投入に至らない結果は全部「成功ではない」わけだが、「成功ではない=失敗」というこの記者の二分法的な語法はいくら何でも粗すぎる。

今回はアボートシーケンスに移行してちゃんとエンジンは止まっており、機体も衛星も健全なまま失われていない。これを失敗と呼ぶなら、アルテミスIは何回「失敗」したんだという話になる。

「成功」と機体が失われるレベルの「失敗」との間にはかなり広いグラデーションがある。それを全て「失敗」とひとくくりに呼ぶのは公平ではないし、科学部記者ならそのグラデーションの中で今回の事象がどこに相当するのかという技術的詳細を報じることこそが仕事だろう。中止じゃなく失敗だろ、みたいな言葉遊びを繰り返したところで、上がらなかったロケットが上がるようになるわけでもない。岡田さんたちの仕事はロケットを上げることであり、国語の問題に答えることではない。人と人との間に必要な当たり前の尊敬がこの記者の言動から一切感じられなかったのにも呆れた。

あと、岡田さんが「お気持ち」を聞かれてつい目を潤ませるような場面も会見中に2回ほどあったが、いい絵が撮れたとばかりにそこだけを切り取って流しているテレビのニュース番組があって、これも不快だった。打ち上げを楽しみに種子島まで来ている親子連れや子供たちのことを思い出して「(予定通りに上げられず)気の毒なことをしたな」とつい感情が高ぶって…と岡田さん自身が語っていたが、それは2時間あった会見の本質的内容とは全く関係がない。中止と涙の間に何か重大な関係があるかのように印象づけようという画作りで、下品だし失礼。

11月の燃焼試験もクリアしているし、まあ上がるだろう。「粗探しをして叩く」「感情を煽る」ことを報道だと思っているオールドメディアは滅びて良い。


Comments

“H3打ち上げ中止” への2件のフィードバック

  1. […] そういえば、「それは一般に失敗と言います」さんは昨日は参加していなかった模様。 […]

  2. […] 例の共同通信の記者も、「それは一般には『失敗』」と主張していた。専門性の低い媒体ほど、「俺達は一般人の代弁者として、素人目線で『強き者』を監視するのだ」みたいな意識が強すぎて、逆にプロに対してひどく横柄・残酷になる変な人が目に付く。お前ら紅衛兵かと。 […]