未知の成分

紅麹の健康被害の件、正体不明なのになんで「入ってる」ことだけは分かるんや、というところにハァ?と思う人も結構いる気がする。

化学物質の成分分析にはクロマトグラフィーというのをよく使う。調べたいものを溶液や気体にして、これを移動させる。素朴な理科実験バージョンだと、濾紙に染みこませた溶液が毛細管現象で動いていくのを利用して成分を分離したりする。ガスクロマトグラフィーの場合は調べたいものを気体にして測定用の管の中に流す。

そんな感じで動かすと、中に含まれている分子の重さに応じて動き方にばらつきができる。基本的には「軽い分子ほど遠くまで移動する」という挙動になって、マラソンの先頭集団がばらけていくように、管の出口から出てくる時刻が分子の重さによって分かれる。出てきた時刻を横軸にとってグラフにすると、分子の重さに応じたピークが現れる。並行して、正体が分かっている分子たちも同じように流し、測定データと比べることで、ああ、このピークは●●だな、と分子の種類を同定する。

なので、今回の検証ではこのクロマトグラフィーをやった結果、食品に含まれている既知の分子たちとは違う所に何かピークが出たということなのだろう。クロマトグラフィーは基本的には「分子が出てきた時刻(保持時間)」という形でしか答が出てこないので、分子の重さ(分子量)はおおよそ見当が付くが、構造や種類まで特定するには時間がかかるだろう。

…という程度は朝の情報番組などで解説してよいのではと思うが、あまりそういう話はされていないように見える。

twitter を見ると、分析界隈の方々が同じようなツイートをしているので、上記の自分の所感がおおよそ間違っていないことが分かった。記者会見で会社側は分析手法についての話もしたが、伝えた媒体があまりないということらしい。多くは社会部の記者だろうから、文系出身なんですかね。ちょっともったいない。

上記のツイートで書かれている「LC/MS」というのが液体クロマトグラフィー質量分析計、「GC/MS」というのがガスクロマトグラフィー質量分析計のこと。

分子の構造についても、ベンゼン環を持つ化合物であるというくらいまでは分かっているらしい。まあそれだけだと星の数ほどあるが。

2024/03/29: 正体はプベルル酸という物質だと判明。ベンゼン環ではなく七員環でしたね。