ワクチン2023秋

これまで何回接種したのかもう覚えていないが、スマホの接種証明書を見ると4回接種しているらしい。今月、5回目の接種予約が始まる。

https://www.city.sayama.saitama.jp/kinkyu/coronavirus/vaccine_2023fall/index.html

64歳以下の対象者で接種をご希望の方は接種券の発行申請をお願いします(準備中)

上記対象者のうち、64歳以下の方で接種を希望する方は、接種券の発行申請が必要です。なお、65歳以上の対象者は申請不要です。
申請は、2023年9月20日(水曜日)開始予定、申請を受けた方の接種券の発送は10月10日(火曜日)以降を予定しています。

コロナワクチン追加接種(令和5年秋開始接種) 狭山市公式ウェブサイト

今回は現役世代には自動で接種券が来ず、申請が必要。接種費用は今回まで無料。

ワクチンはファイザーのXBB.1.5対応版が使われるとのこと。

変異株の種類がどんどん増えているが、現在流行の主流になっているXBBやBQ,EGという系統はオミクロンという変異株からさらに変異したものである。現状ではそれほど有害ではないので新たなギリシャ文字は割り当てられていない。

WHOのルールで、SARS-CoV-2 の変異株は重大性の高い順に、

  • 懸念される変異株 (Variant of Concern; VOC)
  • 注目すべき変異株 (Variant of Interest; VOI)
  • 監視中の変異株 (Variant Under Monitoring; VUM)

の3段階に分けられる。以前はVOCとVOIにギリシャ文字が割り当てられてきたが、2023年3月15日にルールが変わり、ギリシャ文字はVOCだけに付けることになった。VOCの定義は、VOIにランクされた変異株のうち、

  • 臨床的重症度が有害な方向に変わった
  • 保健システムの能力に影響を与え、大規模な公衆衛生上の介入が必要になった
  • ワクチンの効果が著しく下がった

のどれか1つ以上を満たすもの。BA, BQ, XBBなどは今のところVOI止まりなのでギリシャ文字は付かない。現時点でどんな変異株がどのランクに指定されているかは以下のページで見られる。現在はVOCは一つもない。VOIに3種(XBB.1.5, XBB.1.16, EG.5)が指定されている。EG.5はXBB.1からスパイクたんぱく質のアミノ酸が3個変わったもの。

https://www.who.int/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants

SARS-CoV-2ウイルスの変異株について、2022年12月時点での系統樹は Wang et al. (2022) という論文の Figure 1B で見ることができる。厚労省の予防接種・ワクチン分科会の資料でもこの論文が引用されている。(今はさらにEG.5がXBB.1の先に派生している)

この図は株同士の「遺伝的距離」というのを表した図で、ノード間の距離が遠いほどゲノムの塩基配列がたくさん変わっていることを示す。線の方向には意味はない、と思う。WA1が最初に武漢で見つかった株。オミクロンからBA.2、BA.2からBA.5とXBBが派生し、BA.5からBQが派生していることが分かる。今やXBBやBQは(武漢株を基準として)デルタ株よりも3倍くらい遠いゲノムへと変異している。ここまで変わってくると武漢株ベースのワクチンはまあ効きづらくなるだろうとは納得できる。

実際、どのくらい効きづらくなっているかを調べましたというのが上記の論文の肝で、図のキャプションを日本語にしたものが厚労省の資料に載っている。

令和5年度の接種について(第47回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料1-1より抜粋)

左の図は、過去に武漢株ベースのワクチンを3回、さらに「武漢株+BA.4/5」対応の2価ワクチンを1回打った人の血清を使い、さまざまな変異株と混ぜてみて、血清をどのくらいまで薄めて混ぜてもウイルスを無力化できるかという限界(中和抗体価)を調べたもの。武漢株に対しては血清を13000倍希釈しても無力化できるくらいワクチンの効果が血清に残っているが、XBB.1が相手だと160倍希釈までが限界ということで、効き目が85分の1に落ちている。縦軸の102(100倍希釈)に点線が引かれているのはここが測定の検出限界であることを示す。XBB.1株に対しては、従来型3回+2価ブースター1回接種しても、効き目が検出限界のちょい上くらいまでしか発揮されないことが分かる。

右の図は「抗原地図」というもので、さまざまなウイルス株の抗原性がどのくらい違うかを、2つの性質に絞って2次元の散布図にしたもの。また、さまざまなタイプ・回数のワクチン接種をした人の血清の効果(抗体価)がその抗原性にどのくらいマッチしているかも重ねて描いている。これで見ても、XBBとかBQは武漢株やBAよりだいぶ遠い。

個人的に興味深かったのは、この論文の Figure 3 に載っていたもう一つの抗原地図。

上の抗原地図とほぼ同じだが、SARS-CoVというのが2002年にいわゆる「SARS」を引き起こしたコロナウイルス。WIV1はコウモリに感染するコロナウイルスの一種。GD/GX-Pangolinはセンザンコウに感染するコロナウイルス。つまり、XBB系統の抗原性は、もはや初代SARSや他の動物のコロナウイルスと同じかそれ以上に、武漢株からかけ離れたものに変異してる可能性がありますよという話。ただし、この抗原地図法というのはウイルスや血清を2つの性質のみに注目して2次元平面に投影してしまうので、他の性質も軸に使って多次元空間で見れば、もっと距離感の違う地図になる可能性はある。

まあそんなわけで、武漢株やBAに対応したワクチンではもうあんまり意味がないので、2023年秋冬のワクチンはXBB.1のみに対応した1価ワクチンに切り替えましょうとなったらしい。武漢株なんかもう流行していないしね。

2023年8月の各国の流行株 Top 5 は以下の表から分かる。EG.5 系が絶賛流行中。EG.5 は上で書いたように XBB.1.5 から変異した株なので、XBB.1系対応ワクチンならよく効くでしょう。

東京都健康安全研究センター » 世界の新型コロナウイルス変異株流行状況(2023年9月13日) BA.2.86.1情報

厚労省や東京都のwebサイトにはこういう有用で面白い情報がたくさん公開されていて、官僚や専門家の人たちは最新の情報を収集してきちんと仕事をしているなぁと思うのだが、テレビの報道や情報番組ではこういう話はほとんど紹介されず、「ワクチンを接種したいか、街の人に聞いてみました」とか、「「有料になったら接種しない」という人が○%でした」、とか、どこかのクリニックの先生のコメントとか、そんなのしか流さない。それはただの「お気持ちの集積」であって感染症対策の報道ではない。一方で、「ワクチン接種後に亡くなった○○さんの遺族はいま」みたいなセンセーショナルなエピソードには嬉々として時間を割く。下らないなーと心底思うわけです。