Seán Doranさんが作成したタイムラプス動画が公開されている。
Doranさんはアイルランド出身の市民科学者でビジュアルアーティスト。惑星探査機の生の観測データを画像処理して綺麗な画像を作成する活動をされていて、よく名前を目にする。
この動画の元画像はISSで第73次長期滞在をした油井亀美也飛行士が11月7日に撮影したもの。
ISSの180度反転マヌーバの最中に窓から撮影されたものだが、どこの窓から撮影したのかいまいち不明。ISSの船首側にドッキングしているカーゴドラゴン宇宙船(CRS-33)らしき機体が映っているので、それの隣、天頂側にドッキングしているクルードラゴン宇宙船(Crew-11)の窓から撮ったのかもしれない。

ISSがゆっくり反転していく途中で映るまばゆい天体は月。そのすぐ近くにぎょしゃ座が映っている。月の背景にある恒星がこんなにはっきり映るのは宇宙ならでは。
動画の後半では、後ろを向いたカメラがもう一度180度反転して前側に戻る様子が映っている。
ISSは上の図のような形で飛行していて、図の下側に地球があり、進行方向は左。船首側のモジュールに米国、船尾側のモジュールにロシアの宇宙船・補給船がドッキングする。米ロのドッキングポートに互換性はない。
ISSはいろんな理由で、向きを180度入れ替えたり90度回転したり、わりと頻繁に姿勢変更をしている。今回は船首側に付いているCRS-33のスラスターを噴いてISSを加速・軌道上昇させるため、いったん180度回してCRS-33を後ろに持ってきて、加速を終えてから元の姿勢に戻した。
180度向きを変えるのなら、シンプルに地球−天頂の軸の周りに(横に)180度回せばいいじゃないと思うが、今回のタイムラプス動画を見ると、回転途中で船首が一時的に上を向いて宇宙が見えている。
こういう少し遠回りの回転をさせることで、実は反転に必要な燃料が1/10以下で済むことが2012年に発見され、「最適推進剤マヌーバ (optimal propellant maneuver; OPM)」と呼ばれて常用されている。大気の抵抗や地球重力の細かい不均一によってISSにトルクが生じるので、それをうまく利用するらしい。人類の叡智はすごいですね。実際にどう回転するのかは Reddit に3Dモデルの動画が投稿されている。
ロシアのウクライナ侵攻の直後に、「ISSからロシアモジュールだけ切り離すぞ、そうすればお前ら(西側)はもうISSの加速ができなくなって軌道が落ちる一方だぞ」と、当時ロスコスモスCEOだったロゴジンが脅迫したのだが、そんなわけでISSを反転させて米国側ポートの宇宙船から押してやる、という加速方法が確立できているので、こういう脅しには意味がない。
