EHT再解析

多忙で書かないまま旬を逃したが、6/30 の zoom 記者説明会後の tweet などを集積しておく。

M87銀河の中心の電波観測データを独立に再解析|国立天文台(NAOJ)

自分が論文を読んで一番気になっていたのは、リングがあるかどうかよりも、「視野を広くとって画像化したら西北西(2時方向)に伸びるジェット構造が見えた」という主張。(M87 の中心核から西北西方向にジェットが伸びていること自体は昔から知られているので、これは、「我々の手法は既知の構造を正しく画像化できていますよ」という、再解析の正しさを補強する意図での主張だろう。)

しかしながら。

図を見る限り、あたかもジェットのように見えているのは「ジェットのような形に置いたBOX(赤い8個の円)の輪郭が見えてるだけじゃん」と思うわけです。BOX の内部にほそーくジェットが画像化されたのならともかく、はみ出しちゃってますからね。

※ なお、「BOX」が何なのかについては、天文学辞典を見ると何となく雰囲気は分かるかと思います。

クリーン | 天文学辞典

ただし、uv面上でのビジビリティ分布が極めて限られていたり偏っている場合には、真の天体画像とは程遠いクリーンマップに収束することもよくあるため、クリーン成分が存在する画像範囲を指定することもある。この操作を「ボックスをかける」という。

「ここに構造があることは分かっているから、この中だけ絵にしましょう」と範囲を限定して解を求めることで、間違った解に収束してしまうことを避けるという手法です。

三好さんたちは EHTC チームのやり方に対して、「40μas のリングがあるという前提知識(先入観)の下で、artifact をリング像だと言っている」と批判しているわけだが、三好さんたち自身もまた、「西北西方向にジェットがある」という前提知識(先入観)の下で、そこだけに BOX をかけて「ジェットが出ました」と主張している。批判相手と同じく「仮定=結論」的な主張をやってしまっているんじゃないの、人のこと言えないんじゃないの、と私は思うわけです。

しかも、論文の図4には赤い BOX の円を描いているのに、

論文 Fig.4

一般向けのプレスリリース画像では描いていない。

プレスリリースでの画像

円がなければ、「ああ確かに西北西にジェットが噴き出してるんですね」と素人は受け取ってしまうだろう。

「プロはだませないから論文の図には赤い円を描いたが、素人にはどうせバレないから素人向けの図では消しておこう」と考えたのかしら、という邪推の余地が残る、不誠実なやり方だと思います。

…というようなことを私は説明会で質問して、三好さんの回答は、「西北西方向以外に BOX をかけた場合もチェックしていて、そっちには構造はないことを確認した」というものだった。でも論文にはそういうことは書いていない。

共著者の牧野さんは、西北西以外の方向も含む広角のマップを作ったが、論文投稿のどこかの時点でこの絵がなくなり、そのまま accept されてしまった、とおっしゃっている。そんなん言われてもな…。でも、私の話が通じたのはさすが牧野さん、と思った。

まあそんな感じで、EHTC という「巨象」に噛み付く論文としてはあんまり出来が良いわけでもないんじゃないか、という印象。(※ 個人の感想です)

まだ続くかどうかは分からないが、「#eht」タグを追加しました。