ナゾロジーという自称科学系webメディアで取り上げられ、話題になったらしい。「宇宙が膨張しているのではなく、『ものさし』(を形づくる物質)が収縮している」という論文プレプリントが紹介されたようである。「生え際が後退しているのではない。俺という存在が前進しているだけ」みたいなしょうもない話。リンクはしない。まとまらない感想を書いておく。
この論文に関しては、「箱を開けなくてもパッケージを見るだけでゴミだと分かる」という外形的な特徴があり、天文や宇宙物理の学部生以上であれば即座にスルーする程度のものである。
- 論文誌に投稿する前の「プレプリント」であり、査読を受けていない
- プレプリントサーバーが、普通使われる arXiv.org ではない
- 宇宙論業界で聞いたことのない人が著者
中身を読んでいないので何ともだが、宇宙膨張の観測的証拠である「銀河のスペクトルの赤方偏移」を「ものさしが縮んでいる結果」と解釈したいということなんですかね。であれば、光速 c だったり、原子のサイズを決めている微細構造定数 α だったり、微細構造定数の定義の中に現れる電気素量 e やプランク定数 h だったりという物理定数が時間とともに変化しているせいで赤方偏移が観測される、という論理なのかしら。
「物理定数、実は定数じゃない」説というのは宇宙論の中で昔から登場し、昔から検証され続けている仮説で、新味はない。今のところそのような兆候は一つも見つかっていない。
ただ、明日になったら物理定数が変化している兆候が見つかる可能性もあるので、チェックし続けることにはまあ意味がある(自然界のありようとして、そういうのはなんか美しくない気はするが)。
「科学理論とは現時点で世界を最も上手く説明できる仮説に過ぎない」というのは本当。島袋さんがツイートしている通り。(「さらに表示」を押して全て読むことをおすすめします。今回のプレプリントの内容が科学としてどうかという話は島袋さんのこれで尽きている)
ナゾロジーのようなインプレッション稼ぎの「自称」科学系メディアをどうしてくれようというツイートもいろいろ見た。難しいですね。
扇情的な見出しで嘘だらけの粗悪なニュースを売るメディアというのは昔からあって、「イエロージャーナリズム」と呼ばれている。
昔はオカルトの領域でそういう商売がたくさんあったが、20世紀末のオウム真理教事件とノストラダムス大予言の不成就によってオカルトは廃れた。しかし「ふしぎな話が好き」というニーズはいつの世にもあるので、今はそういう需要に対して自然科学「風」の与太話を売りつけるビジネスが出てきたということなのだろう。
科学メディアの端っこで仕事をしている自分にできることは、「悪貨」に駆逐されない「良貨」を地道に作り続けることしかないかなぁと思っている。何て凡庸な結論。
悪貨に駆逐されない良貨(=まともな科学メディア)を世に提供し続ける上で非常に大事なこととして、「良貨を作る仕事だけで作り手が食えるようにすること」というのがある。これは 本 当 に 切 実 です。食えないとやっぱり、胡散臭い仕事でもやるしかねぇか、ってなるのは当然なので。
コンビニで梅のおにぎりが200円を超えて以降、自分はコンビニおにぎりは買っていない。なので、お仕事待っています。できれば高単価の。
