アルテミス計画

理由があってそうなっているものを理由を理解せずにどんどん壊して何か改革をした気になる、というのは日本の民主党政権でたくさん見たなー、と懐かしい思いでトランプ政権とイーロン・マスクの行状を眺める昨今。ポピュリズムというのは右左関係なくこうなるものらしい。

一つ気になるのは、彼らがアルテミス計画をどうするのか、という点。無人月往復のアルテミス I が2022年11月におこなわれた後、いろいろ遅れて何度かリスケジュールされている。最新のアナウンスでは、有人月往復のアルテミス II が2026年4月、有人月着陸のアルテミス III が2027年半ばの予定とされている。

アルテミス III はアポロ計画とは違い、一度のミッションのためにロケットを2本(以上)使う。月往復用の宇宙船オリオンはNASAのSLSで上げ、月着陸船 Starship HLS は SpaceX の Super Heavy で上げる。両者は月周回極軌道でドッキングし、オリオンから Starship HLS に飛行士2名が乗り換えて月に降りる。月面活動を終えて再離陸した Starship HLS は月周回軌道上で待つオリオンに再びドッキングし、2名はオリオンに戻ってオリオンで地球に帰り、着水する。

アルテミス II が遅れている大きな原因は、アルテミス I でオリオンが大気圏再突入したときにヒートシールドが想定よりも大きく損傷してしまった問題を解決できていないこと。あと、SLSが莫大な金と時間を食うわりに年1回くらいしか上げられなくてスピード感が微妙という問題もある。

SpaceX の Starship HLS + Super Heavy もアルテミス III に必要な要素技術はまだ揃っていないが、オリオン + SLS の方よりは進捗が目に見えている。Starship の軟着水や、Super Heavy を発射塔のアームで挟む回収に成功している。

地球低軌道 (LEO) に上がった Starship HLS はその時点で燃料がすっからかんになるので、そのままでは月に行けない。そこで「タンカー Starship」を何度も打ち上げ、地球低軌道上で「給油」をしてやることになっている。この給油は10回くらい(!)必要とされている。この技術の確立がまだ。

というわけで NASA も SpaceX も遅れているので、イーロン率いる DOGE(政府効率化省)がここに何らかのメスを入れるのではないか、という可能性はありうる。SLS を開発しているボーイングは SLS が開発中止になる場合を想定した対応を検討している、との報道もあった。

ただ、SLS をやめたとして代替をどうするのか、というのはよく分からない。現状、一発でオリオンを月遷移軌道に投入 (TLI) できる大型ロケットはSLS 以外には存在しない。Reddit でもいろいろ議論されている。アルテミス III までは計画通りやって、IV 以降をやめるのではという話もある。

Starship の軌道上給油の技術ができればという前提での話だが、もうオリオンなしで SpaceX だけでやればよくない?という考え方もある。LEO で Starship を満タンにしてから Falcon 9 + Craw Dragon で飛行士を打ち上げ、LEO で Starship に乗り換えて月に向かい、月着陸・再離陸・地球遷移軌道投入までやり、帰ってきた LEO でまた Crew Dragon に乗り換えて地上に帰還する、みたいな。ただし、LEO → 月面 → LEO までできるほどのΔVマヌーバが Starship に可能かどうかは議論が分かれている。

月から地球に帰ってきて直接大気圏再突入せずにいったん LEO に入るというのも、秒速11kmを秒速8kmまで落とす減速ΔVが必要なのでなかなか大変。月周回軌道にも給油施設があればいろいろ楽だけど。

仮にイーロンが米国の宇宙計画周りに手を付けようとすると、SpaceX CEO としてのイーロンと DOGE 担当官としてのイーロンの間にはどう考えても何かしらの利益相反が生じるはずで、どうすんのかな、というのも謎。