表札

もう20〜30年前か、日光へ家族旅行に行ったときに父が土産で買った表札をまだ使っているが、雨ざらしで真っ黒になっていたので手入れをした。

まず鉋がけ。サンドペーパーとどっちがいいかという話だが、鉋の方が刃で木の組織を切断していくので、粒子でこそぎ取っていくサンドペーパーよりもミクロなスケールで表面が平滑になり、後から撥水性も出るという話がある(参考:大工の正やん)。ならば、外に置く表札なら鉋だろうと判断。

しかしこれは難しかった。中学のときに買った鉋があるが、刃が錆びていたのでまず刃研ぎ。研いだ刃を装着して表札を削ったが、最初は刃の出し過ぎで引っかかって表面がガタガタになってしまった。刃を出す量は髪の毛の太さの半分とか言うが、自分の感覚だともっとずっとわずか。出ているかいないか分からんくらいでちょうどいい。調整が非常にピーキー。苦労して削って真新しい白木を出せたが、わずかな凹凸がどうしても残ってしまった。

鉋をかけたらニス塗り。油性のクリアラッカーにしたら家中がシンナー臭くなって閉口。水性にすべきだった。何度か重ね塗り。

重ね塗りの乾燥を待つ間に刷毛が固まってしまうという問題があるが、刷毛から塗料の溶剤が揮発するのが固まる原因なので、刷毛をビニール袋に入れてマスキングテープなどで口を密封しておくと固まらない、というのを知った。

そんな感じでだいぶ綺麗にはなったが、元々の表札があんまり良くないことにも改めて気づいた。

これは綺麗にした後の画像だが、墨が滲んでいる。今回墨入れはやっていない。ニスで滲んだのでもなく、元からこうだった。木を彫って色を入れる場合、砥の粉を塗って目止めをする必要がある。木の組織には道管がたくさんあるので、彫ったまま色を入れると道管が塗料を吸ってしまい、このように組織の深いところまで滲みが生じてしまう。砥の粉を道管に入れて埋めておく必要がある。

この表札は墨の滲みが深い所まで起こっているので、表面を鉋がけしただけではどうにもならなかった。文字を全部削ってやり直すしかないが、面倒なのでそこまではしない。

確か、華厳の滝の近くにたくさんある土産物屋で父が彫ってもらったものだと思うが、まあ観光地の土産物屋なんていうのは、こういう砥の粉も使わないような、粗雑な仕事で商売しているわけですよ。やっぱり観光地だとか行商だとか訪問販売だとか、行きずりの商人から買い物なんかするものじゃないな、と改めて実感。今見ると字も下手くそだしな。まあこれも家族の思い出なのでそのまま使う。

「野」の最後の縦棒も、筆ではこうはならないよね。筆の入りが横棒とは分離するはず。明朝体の字形を真似して彫ったのだろうか。