うるう秒

を2035年までに廃止するという報道が一部でされている。

うるう秒、2035年までに廃止へ

「うるう秒」の廃止が決定、2035年までにうるう秒の挿入は停止されることに

日本語の翻訳記事は和訳の時点で誤訳が入りやすく、載せる媒体の関係者が非専門家であるという点でさらに間違いが入り込みやすいので、一次資料を見る方がよい。

国際度量衡委員会 (CIPM) で11月に行われた度量衡総会 (CGPM 2022) の決議4がうるう秒に関するもの。(いちいちフランス語が正文になっているのがうざい)

https://href.li/?https://www.bipm.org/documents/20126/64811223/Resolutions-2022.pdf/281f3160-fc56-3e63-dbf7-77b76500990f

「撤回する (recalling)」、「歓迎する (welcoming)」、「注記する (noting)」、「認識する (recognizing)」、「決定する (decides)」、「要求する (requests)」、「奨励する (encourages)」、といろいろなレベルの表明がされているが、重要なのは撤回された事項と決定要求の部分。

撤回されたのは、「歩度は TAI(国際原子時)と同じ。UT1-UTC が±0.9秒を超えると予測されたら UTC にうるう秒を±1秒入れる」という現在の UTC の仕様。

決定されたのは、

  • 現在 ±0.9秒とされている UT1-UTC のしきい値を2035年までに増やす

ということだけ。「うるう秒を廃止する」とは書いていない。UTC に不連続な時間挿入を行うためのしきい値を0.9秒より大きくします、と言っているだけ。

要求されたのは、

  • UTC の連続性を少なくとも1世紀にわたって保証する、UT1-UTC の新たな最大値を提案すること
  • 提案された新たな最大値を実装する計画を2035年までに準備すること
  • 新しい最大値を CGPM がちゃんと運用できるように、CGPM がレビューするための期間を提案すること
  • 次の総会(2026年)で決議できるような、これらの提案を含む決議案を作ること

の4点。現状のしきい値 0.9 秒というのは小さすぎて、数年ごとにうるう秒が挿入されることによる社会の対応コストが大きすぎて大変なので、最低でも100年くらいは挿入しなくて済むように、しきい値を大きくします、という話。

今は「UT1 が UTC より0.9秒遅れたら UTC に1秒足す」というルールだが、仮にしきい値を100倍の90秒にして「90秒遅れたら91秒足す」ということにすれば、UTC は200〜300年に1回「うるう91秒」が入るという形に変わる。91秒は半端なので、まあ60秒、つまり「うるう分」の挿入という形に変えるのが無難かなと個人的には思うが、「●秒遅れたら○秒足す」の●と○をいくつにしましょうか、という議論をして2035年までに決めようという話。

そもそもなぜ UTC を UT1(地球回転に同期する時刻。天体観測で決める)から大きくずれないようにしたいかというと、「0時とは何か」という定義に古来続く意味を持たせ続けたいからだろう。

0時(正子)とは、12時(正午)の12時間後(前)のことである。で、正午とは、「太陽が南中する時刻である」というのが歴史的に最も素朴な定義だったはず。実際には太陽の南中時刻は「均時差」という要因で、季節によって数十分ほど変動するので、「平均太陽」という変動のない仮想的な太陽が南中する時刻を考え、それを正午とした。

この素朴な定義から現代の UTC もあんまり離れないようにしたい、ということですね。太陽の南中時刻が18時とかになったらやっぱり気持ち悪いだろう、という。

ただし現代の状況では、太陽が真南に来る時刻は地方標準時での12時から最大で±2時間くらいはずれうるはず。タイムゾーンはおよそ15度(=1時間)刻みの帯になっているので、実際の各経度での地方平時は標準時から1時間くらいはずれうるし、夏時間を導入している国ではさらに夏時間分のずれも1時間加わるので。それに違和感を覚えている人もほぼいない。気にするのは日時計の製造業者くらいか。ならば、0.9秒という誤差で UTC を地球自転に追従させるのはオーバースペックすぎてまあ意味がない。