広島大学助教の方が26歳の若さで「アジアの科学者100人」に選出されたとかで話題に。
https://www.asahi.com/articles/ASR9C72L0R8TPITB00L.html
この記事を載せた「Asian Scientist Magazine」というシンガポールの雑誌もよく知らないのだが、ふーむという感じ。
この年齢で既に十数本の論文があるというのでまた話題になっている。
https://togetter.com/li/2223282
論文リストは広島大学の研究者一覧から見られる。11編が載っている。
https://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/en.4a29e15536ce6dff520e17560c007669.html
ただ、個人的感想としては、投稿している雑誌が微妙なのが多い。Physical Review D に2本出しているのは立派だが、他は以下の通り(カッコ内はImpact Factorの値)。
- Physical Review Research (2.286)
- 米国物理学会の “Physical Review ほげほげ” シリーズの中で、オープンアクセス・総合ジャンル1のジャーナル。悪くはない。
- Scientific Reports (4.6)
- Nature がやっているオープンアクセス系ジャーナル。Nature のジャーナルでは一番格下とされている2。悪くはない。
- Universe (2.813)
- 「ほぼハゲタカジャーナル」の量産元として有名なMDPI社の雑誌!!!3
- IEEE Transactions on Applied Superconductivity (1.949)
- この雑誌の論文著者には自己引用が非常に多くみられるため、2020年にJCRがIFの一時公開停止措置を取ったといういわく付きの雑誌4。
- Electronic Proceedings in Theoretical Computer Science (N/A)
- 会議・ワークショップの集録集的な雑誌5。情報がほぼない。JCRのIF公表対象外。Webサイトの作りが1990年代のようで凄い。
- International Journal of Engineering & Technology (0.205)
- 出版元はヨルダンの企業。工学の全ジャンルをカバーするオープンアクセス雑誌、らしいが…6。
- Journal of Applied Physics (3.2)
- これは米国物理学協会 (AIP) が出している、応用物理ではよく知られたまともな雑誌7。
論文リストを見て「なんか巻号が若い雑誌が多くない?」というところで気づく人は気づくと思うが、最近創刊されたばかりの、オープンアクセスで査読が速い(=内容の吟味よりは速報性重視、悪く言えば何でも載せてくれる)という雑誌が多い。対象分野が広い雑誌というのも、よく分かってる専門家がレフェリーに付かないので何でも通る確率が高いということになる。
というわけで、PRDに2本、Phys. Rev. Research, Scientific Reports, JAPに各1本の計5本というのを見ればまあ優秀かなという気もするが、かなりろくでもないジャーナルにも投稿しているので、なんでそんなことするの? という印象。26歳で海外誌5本なら十分立派なのに。
なので、「異次元の経歴」とか言ってもてはやすよりは、ちょっと距離を置いて眉毛に唾液を塗りながら眺めた方がいいのでは、という気がしている。電気回路でブラックホールのホーキング輻射を模擬するというのもなんか面白いけど、決して量子重力あたりの「本流」のテーマ・手法ではない。
何度も書いていることだけど、天才やスーパースターを安易に待望する空気というのは本当に危険なので、冷静になった方がいい。包装紙が立派な人物にみんなで飛び付いてひどいことになった事例、何度もありましたよね。
- Physical Review Journals ↩︎
- 論文を投稿するジャーナルの選び方 – 日本の科学と技術 ↩︎
- MDPIはハゲタカジャーナルなのか?その評判 – 日本の科学と技術 ↩︎
- IEEE Transactions on Applied Superconductivity – Wikipedia ↩︎
- Electronic Proceedings in Theoretical Computer Science ↩︎
- About the Journal | International Journal of Engineering & Technology ↩︎
- Journal of Applied Physics | AIP Publishing ↩︎