MRJと転職の思い出

三菱のスペースジェット(旧三菱リージョナルジェット (MRJ))の開発中止が決まった。ようやく。

三菱重工、スペースジェット開発中止を正式発表 泉澤社長「機体納入できず申し訳ない」

6、7年前に前々職を辞めようと転職活動をしていて、略称がJで始まる5文字の航空宇宙関連企業に応募したことがある。JAXAの協力会社の一つで、「きぼう」や「はやぶさ2」の管制にも関わっている。

当時自分が応募したのは、宇宙機や飛行機のシステムやソフトウェアの安全性保証、品質保証あたりの職種だった。勤務地はつくばだったが、J社は名古屋にも事業所があり、三菱航空機からMRJ開発プロジェクトの安全性保証に関する部分を請け負っていた。

所属部署のリーダーの方による1次面接は通り、募集要項では面接はあと1回という話だったが、なぜか2回に増えた。2次面接は名古屋にいる部長による面接で、これも特に問題なく通った。あとは取締役の最終面接があるので、「元気よくやってね」みたいなアドバイスを部長さんからいただいた。

最終面接は取締役3人によるものだったが、これが経験がないほどひどかった。あまりにもひどかったので、何があったのか忘れないようにと当時メモを残し、応募辞退を人事担当者に伝える際に送った。そのメールからの引用。

  • 適性検査で「対人関係が苦手」という結果が出た点について、「うちは厳しいけど大丈夫なの? やれんの?」との質問を再三受けた。
  • 大学院を中退後に小規模な会社に就職した点について、「いい大学を出たのになんでこんな会社に?」など、また「現職は収入面などで厳しいため、安定性のある会社を志望して御社へ」と私が答えたことに対して、「大学院から富士通とか大企業に行けたでしょ。だいたい分かるでしょ?」など。
  • 「宇宙が好き」という志望動機について、「20代ならともかく、40歳を過ぎて独身で家族もなくて「宇宙が好き」とか言っててもねぇ。まあだいたい分かるけどね」(=そんな感じだからその歳で独身なんだよ、という言外のニュアンスを感じました)(「40を過ぎて独身でねぇ」というのは2回言われました)
  • Windowsソフト開発の経験はあるが「システム検証」や組み込み系の経験がない点で「採用後に勉強してキャッチアップしたい」「何であれ、やるうちに面白さを見い出していける性格だと思う」と答えた点について、「中途採用ってのは即戦力を求めてるわけだからさ、「何年かやるうちに」とかじゃ困るんですが」と突っ込まれました。募集要項には「採用後はメンターに付いて研修を受けるので未経験でも2年程度で業務を覚えられる」とあったのに話が違うな、という印象でした。【補足:俺は「何年かやるうちに」などとは言っていないのだが、これを言ってきた取締役は、いきなり大声を出してこちらを罵倒するような勢いで食ってかかってきた。】
  • 常務のお二人は終始半笑いで私に応対し、そのうちのお一人は椅子に横座りして手に持った老眼鏡で私の顔を指しながら喋る、といった態度で、人生を賭けて応募してきている応募者に相対する姿勢としてはちょっと油断しすぎでは、と思われました。
  • 面接の最後にこちらからの質問を受け付けるといった時間もいただけず、20分が過ぎたところでそのまま終了となってしまいました。

そもそも中途採用としての募集だし、応募資格や年齢の条件もクリアしているのに、「40歳を過ぎて独身で『宇宙が好き』とか言われてもね」などと職務以外の経歴や人格を否定するような言葉を受けたのには、かなり傷付いた。だったら1次・2次で落とせよ、と思った。

いわゆるストレス耐性などを見るための圧迫面接なのかとも思ったが、であれば面接の最後に「そういう耐性を見たかったのできつい言葉を投げかける場面がありました。すみません」などと種明かしをすべきだろう。そもそも圧迫面接という手法自体がとっくに時代遅れになっているが。

まあこんな感じだったので、1次・2次の面接をしてくれたリーダーの方と部長の方は大変好感触だったのだが、最終面接の結果を聞く前にこちらから辞退した。選抜であれテストであれ、人を惨めな思いにさせて何とも思わない会社に入ろうとは思わない。現場と取締役の距離が遠い、不幸な会社だね、と思った。

あれから7年経ち、MRJ が米国 FAA の型式証明を取得できないという理由で開発中止になったとの報を聞くにつけ、まさにあの、求人していたシステム安全保証のところで結局うまくいかなかったのかなー、と感慨深い。あの後、優秀な人は採れなかったのだろうか。

当時ひどい面接をしてくれた取締役の人々が今もJ社にいるのかは知らない。近い業界で今仕事をしているが、今後J社がらみの仕事だけは受けまい、と心に決めている。

MRJ がダメだったのは、「旅客機の型式証明とはどうやって取るものなのか」という基本的理解やノウハウが日本の企業にも官庁にも存在しないからだという話もある。ホンダジェットがうまくいったのは、あれは日本の国産機ではなくホンダ傘下の米国法人が作ったから FAA の型式証明を取れたのだと。

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