渋谷陽一(1951-2025)

合掌。

彼について特に詳しいわけでもないが、浅い思い出がいくつかある。

学生時代にテレビが部屋になくて、ラジオをよく聴いていた。それで彼の番組をたまに聴き、なんかめんどくさそうな人だと思っていた。

レニー・クラヴィッツの Are You Gonna Go My Way がたぶん出たばかりの頃、彼の番組で初めて聴いて、このギターリフ凄いな、と衝撃を受けたのを覚えている。あと、イーグルスの Hotel California の歌詞を全訳して紹介し、あの奇妙な詞の背景にどんな意味があるのかないのか、みたいなことを解説していたのも覚えている。

2007年にブレイクした Perfume をすぐにフェスに呼んでくれたのは、ファンとしては感謝しかない。特に、2008年 RIJFES の入場規制がかかった伝説の LAKE STAGE と、2013年 RIJFES の最終日、フェス全体の大トリを Perfume に任せた GRASS STAGE。これは現場で見た。アイドルとくくられるグループがロックフェスに出るようになった、ほぼ最初ではないか。

テレ東でやっていた「JAPAN COUNTDOWN」も確か渋谷氏が企画・構成にクレジットされている番組で、Perfume をよく紹介してくれていた。

反面、Perfume と同じ事務所のポルノグラフィティに対してはずっと冷淡だったことも有名。2017年になってようやく、ポルノもロッキング・オンのフェスや雑誌に出るようになる。B’z を初めとするビーイング系も同じく、ロッキング・オン社の雑誌では長年扱わなかった。

渋谷氏の中で Perfume が OK でポルノや B’z が NG だったという線引きはよく分からないが、上の記事などを読むと、NG というよりは「特に興味もないし、他のメディアが取り上げるからいいでしょ」という感じか。

2000年代以降の渋谷氏とロッキング・オン社は、音楽産業の「盤を売る」ビジネスモデルが終わりを迎え、出版業界も縮小が続く中で、生き残るために「『批評』を軸とする総合メディア企業」みたいな不思議な会社へと脱皮を図ろうとしていた印象がある。

ロックヲタっぽい選民思想や原理主義は表には出さず、飯を食うために大衆音楽・大衆文化に迎合できるところは迎合し、でも「『批評』を軸とする」という基本姿勢は捨てたくない——というところに自分は一種のねじれを感じていた。

こういう二律背反はうちの業界にもあるな。一部で流行っている「新星景写真」という名の合成写真を天文雑誌は取り上げるべきか否か、というような話と似ている。ゲテモノにしか見えないけど、でも世間では流行ってるし、あれに感動する人もいるんだよなぁ、という。