NHKの報道などしかなく、調査をしているScanPyramidsプロジェクトからプレスリリースがまだ出ていないが、ScanPyramidsの運営にたずさわっているHIP.instituteから新しい動画が出ていて、状況を把握できた。
大ピラミッドの未知の空間は2つあるらしいことが分かっていた。ScanPyramidsのリリースから、これまでのおおよその時系列は以下の通り。
- 2015/11:サーモグラフィーで、北面にあるピラミッドの「正規の入口」(ふさがっている)の切妻構造周辺で温度分布の異常を発見(HIP.i、カイロ大)
- 2016/10:ミューオグラフィーで「正規の入口」の裏側に回廊状の細長い未知の空間があると結論。名古屋大チームは下降通路にミュオン検出乾板を置いて透視。フランス・代替エネルギー・原子力委員会 (CEA) のチームは大ピラミッドの北辺・東辺にミュオンガス検出装置を設置して外から透視。KEKのチームは「王妃の間」にミュオン電子シンチレーターを設置して透視。3チームとも、「正規の入口」裏の空間が原因とみられるミュオンの超過を検出。超過は5σ以上。この空間は「SP-NFC (ScanPyramids North-Face Corridor)」と命名された。
- 2017/11:ミューオグラフィーにより、大回廊上部にも長さ30m以上の巨大空間があると結論。王妃の間に置いた名古屋大の乾板とKEKのシンチレーター、ピラミッド外からのCEAのガス検出装置でいずれも検出された。この空間は「SP-BV (ScanPyramids Big Void)」と命名された。
ここまでの話は広く公表されていたが、その後、2019〜2020年にかけて、名古屋大とCEAがミュオンを使った追加調査を下降通路で行い、SP-NFCの正確な位置・サイズを推定した。2020〜2022年にかけてはカイロ大・ミュンヘン工科大のチームが切妻構造の表面から地中レーダーと超音波探傷装置を使ってSP-NFCを調査した。
今回、このレーダーや超音波の調査によって切妻構造の石材の下部に小さな開口部が発見され、φ5mmという内視鏡を入れてSP-NFC内部の撮影に成功したということらしい。カイロ大・ミュンヘン工科大チームの論文では「小口径のボーリング孔を開けることを提案する予定」とabstractに書かれているが、開口部を発見したことでボーリングしなくて済んだのかというところまではちょっとよく分からない。内視鏡の映像を見ると、空間に到達する手前は人工的に開けた穴を通っているようにも見える。
約200年ぶりに新たな空間が見つかったことも凄いが、ミューオグラフィーの信頼性がこれで確認されたことは相当大きな成果だといえる。名古屋大チームが論文を出したとき、考古学界では「なんも知らん物理屋が荒唐無稽なことを言ってやがる」的な反応もかなりあったようだが、SP-NFCが実際に存在したことで、大回廊に匹敵する長さ30m以上というSP-BVの方も存在の可能性が一気に高まってきた。
SP-BVは部屋というには大きすぎるので、未盗掘の財宝やミイラが眠る部屋というよりは、重量軽減のための機構と考えるのが自然かもしれない。ともあれ、そっちも中を見てみたいに決まっている。SP-BVの今後の調査にも大いに期待。